佐川恭一『舞踏会』 – 「愛の様式」の父親の言葉に泣きます。

投稿日: カテゴリー
佐川恭一『舞踏会』

舞踏会 / 佐川恭一 / 書肆侃侃房 / 1650円
装丁: 藤田瞳 / 装画: William Hogarh / Wikiart.org

愛や死や社会への視線が1行ごとにスライドする思考にみっちり詰まっています。そのダダ漏れの中で笑ったり、共感したり、嫌悪したりしながらの読書には、「破滅派」初登場時の「優しき権力者の独白」を思いだします。

愛の様式

根本では絶対的な妻と娘への愛を描いた作品。父の言葉「お前がおれに”高い高い”をされてゲラゲラ笑っていたあのとき、ほんとうは楽しくなかったなんて絶対に言わせない」に泣きます。私の友人が「心の底から笑うってあんましないじゃん?でも子育てしてるとフツーにあるからね。あれだけでも子育てしててよかったと思うよ」と言ってたのを思い出しました。

しかしそのような時間と同じだけ、あるいはそれ以上に?嫌なこと、衝突すること、様々な我慢や自己犠牲を感じることは皆、あるはず。この話の主人公も、妻の怒りと住宅ローンに怯えながら家事や育児をこなし、外では適当な聞き役を演じる器の小さな人間で、その観察から様々な愛の形が描かれます。

100ページ、ぎっしり活字で詰まった密度の濃い文章の中に、ありきたりの表現が1つもなく、その癖、後輩の神木や美容室の主人、母親の台詞は隠しマイクの録音を再生しているかのようにありきたりでリアル。たとえば美容室の主人の「もちろん仕事だから本気でやりますよ」の薄っぺらい台詞なんて最高です。

くすくす笑っていたら最後は怒涛の場面転換で唸らせつつ、泣かせました。

これからも何度も妻に怒られるし、「結果」の日まで(私は一人になるときと解釈しました)同じループを何度も繰り返すと確信しますが、きっと亜美との自転車を思い出すんでしょう。

[メモ]
月2万円の小遣い
渡辺
p.70 ローンは3680万円
妻一人、娘の亜美
p.14 松たか子
娘の発育を心配し、家事を嘆き、
後輩の神木の時計と感情は信用したらだめだ、離婚、
行きつけの美容室の主人の米を食った牛の肉。仕事だから一生懸命やりますよ、といういいわけ (p.27)
聞き上手と言われるのは話すことがないから
p.29 話し始めて「お父さんはきらい!」と言われ、娘の結婚式に手紙を呼んでもらうのをあこがれていた
p.35 島田の元カノのサオリちゃんから里奈ちゃんへ。その過程で妻と付き合い始めたことを思い出す
p.48 浜崎あゆみ
p.66 母の場合
p.68 ヤンキーたちの抗争 “クロウズ” ハヤト
p.83 隣の住人
p.85 父の場合

冷たい丘

冷たい自己認識の結果から永遠を恐れ死を望む気持ちと、それが単なる否定でしかなく生き続けたいと願う気持ちとで分裂した少年。

寝ているときだけに平穏を感じる母親、昔、少年に速読を教えたが、今は距離を置く父親。「理想」の体現の北村さん、生徒に気を遣われる沢村先生。彼らの誰も少年を救えないが、隣家のリックが自宅の飼い犬だったら変わったのかなという気もします。

[メモ]
名前=芝原大介
顔面セーフ、沢田賞

舞踏会

人生の途中で道を踏み外し、負けた男は死ぬしかないはずが、それもできないまま全員参加のダンスを倒れるまで踊り続け、周囲を薬物中毒 -「正常」に戻すための薬物でなく、狂うための薬物- の目で観察する。
だまし絵の模写、T4作戦、ドリームボックス、市役所における女性「活躍」の構図等、厳しい読書。

[メモ]
p.151 育休の話

ひだまりの森

ピンクのパーカーの女につられて入って出た「ひだまりの森」公園の情景に合わせた、ゆるゆるした思考の流れとそれがずれていく様が楽しい作品。きらきらした描写と、1979年のレコード大賞とかゴッホの「糸杉」とか。

松田聖子と同時代の設定で「CHAGE&ASKA」はちょっと違和感。松田聖子がこのような取り扱われ方をするのは神田正輝と結婚する前の「ボーイの季節」までだろうから、まず表記は「チャゲ&飛鳥」でなければならない。しかし、ヒット曲が「万里の河」と石川優子とチャゲの「ふたりの愛ランド」くらいしかないので、さほどのファンでもない人が聞くとは思えない。KISS好きの父親に若干フォーク味も持たせたいというなら、ここは「ALFEE」ではどうか。ただし「THE」はまだ付かない。

と、真似してみた。

[メモ]
p.191 CHAGE&ASKA

友情(浜大津アーカスにて)

最初のルカの明るい挨拶にやられてからの有頂天の様が悲しいほどに小ネタでリアルなため、転落の様も胸に迫って大笑いします。

既出の2作が重いので前後に軽めを書き下ろした、ある種の読者サービスかな。「クロウズ」のハルトは、「愛の様式」のハヤトとは違うのか謎は残る。

参考

書肆侃侃房『舞踏会』 佐川恭一

「10と1/2章で書かれた佐川恭一の歴史」はめにゅー

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です