本の雑誌 2021年6月号 – 林さかなの「長田弘の10冊」がよかった

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2021年6月号(No.456) アメンボ張り込み号 (mixi用)
本の雑誌 2021年6月号 (No.456) / 本の雑誌社 / 667円 + 税
表紙デザイン クラフト・エヴィング商會 [吉田博美・吉田篤弘] / 表紙イラスト 沢野ひとし

書斎と机周遊記が山本直樹。大江健三郎、安部公房、バラード、世界大第博物図鑑等々。楽しい。編集発行人の浜本茂とはバンドで一緒だったと初めて知りました。「スロラナ」というのか。

特集は「P+D BOOKSは宝の山だ!」

何月号か前のアンケート葉書のお題が「P+D BOOKSに入れてほしい本」で何のことやらさっぱりでした。小学館からそんなペーパーバックが出ていたんですね。販売書店は限定しているらしいから気づかなかったのか、タイトルが昭和の流行小説ばかりなので、趣味の範囲外として脳内除外したのか。
埋もれている本を紙(Paper)と電子(Digital)で安価に出していこうというもの。試みとしてはとても面白いですね。

全般に紙版の方が売れ行きはいいらしいが、栗本薫だけは圧倒的に電子と聞き、「へぇ、そんなもんか」と思いながらリストを眺めると、作品は「魔界水滸伝」シリーズなので納得しました。それは若い読者が飛びつきそうです。他には「庄野潤三『前途』- 学徒出陣が目前の九大生を描いた自伝的作品」。『海と毒薬』以外に九大が舞台の作品があったのか…。
半ば冗談、半ば本気の「H+Z BOOKS」は、クラフト・エヴィング商會が楽しそうに仕事した様子が伝わってきて、読んでいるこちらもいい気持ちになりました。「今月書いた人」を読むと10割本気の気もしますね。

大槻ケンヂの連載開始(おぉ…)。いきなり、リアル犬神明。ものすごく微妙な記憶だけど、この話をリアルタイムで読んだ気がする、九大1年のとき。犬神明って実在だったんだと思ったもんね。お遊び企画を真に受けたわけです、ばか。

新刊では冬木糸一が相変わらずすべていい。マイケル・サンデルを「時代を捉えたテーマ設定のうまさ」と切り取れる力よ。他には「美しい数式」ばかりを求め過ぎてはいませんか、と問う『数学に魅せられて、科学を見失う』、間もなく完結編出版とタイムリーなブルーバックスの『三体問題』、創作の裏側を紹介する山本弘『創作講座』とジョン・マクフィー『ピュリツアー賞作家が明かす ノンフィクションの技法』。
吉野仁が紹介する『オクトーバー・リスト』は、第36章から始まり、最初に戻っていくそうな。きっと最後に全体の仕掛けがわかるんでしょうが、ネタが大きすぎて良いわ。
大森望『過ぎにし夏、マーズ・ヒルで』。
♪akiraの本と新作映画を併せて紹介する連載「本、ときどき映画」もコンスタントに良いです。今回はクリスティ『杉の柩』と「ローズメイカー 奇跡のバラ」。前者は男女女の三角関係のもつれからの殺人、後者はバラ園を巡る人情喜劇。

マンガ大賞2021は『葬送のフリーレン』。くぅ、なんて面白そうなんだ、と今更。長命種のエルフが振り返るなんてよく考えつくよな。
下井草秀の紹介する音楽雑誌は「ORANGE POWER」。「冷戦時代の社会主義国にはロックが存在しなかったという先入観から、この記事は開放してくれる」という旧ユーゴスラビア連邦のロックとポピュラーミュージックが巻頭特集。ピチカートファイヴがロシアで華やかな西洋文化の頂点として取り上げられていたというのを思い出しました。

服部文祥は小野和子『あいたくて ききたくて 旅にでる』。昔話の老夫婦は、共同社会である「村」に対して労力を提供できなくなったために、人里離れた山に住む。そうした背景も描かれる東北地方の民話とそれを集める過程。現代社会の今の常識がいかに短期間で作られたかよくわかります。
逆に、歴史の延長線を意識するのが、高野秀行のミャンマーゆかりのSF作家なんているの? で紹介されるオーウェルの『ビルマの日々』。

マンションポエムと都市論は最終回。恐らく最初はシャレで収集していたと思うのですが、遠くへ来たものです。大山顕はポエムが語ろうとするもの、隠そうとするものを表に出し、背後の住宅を巡る経済や文化から工法までを丁寧に説き明かしました。

V林田は矢野吉彦『競馬と鉄道』を紹介。丁寧な仕事をすると素人にも情熱が伝わりますね。もちろん紹介もうまい。

石川春菜の「即売会の世界」は3冊どれもが面白そう。タコ交番、土偶交番などのご当地交番を集めた『交番放浪記』、公園や河川の看板に描かれた、危ない目に遭っている少年少女を集めた『ドジっ子図鑑』、「懐かしい町」が感じられる『コンドーム自販機を巡る旅』。これは実物を眺めながら、お話をしながら買いたいねぇ。
そういえば今日(2021年5月16日)は、文学フリマ東京をやってるんだよね。頑張って開催したわけだから応援でも行きたかったけど、うーん、気持ち的には難しいですね。「破滅派」は通販する。

円城塔は、『1つの定理を証明する99の方法』。お題のような方程式も「定理」と呼ぶのか? 『1つの方程式を解く99の方法』じゃないのか。正直、出落ち感が漂うなあ…。

藤岡みなみはタイムトラベル絡みで『はじめての暗渠散歩』。あぁ、これはいいですね。元が川や水路だったものの跡をたどり想像を巡らせながらの散歩。いいなぁ。
風野春樹は『ヴィクトリア朝医療の歴史』で、消毒法を考案したジョゼフ・リスターの伝記。分野に限らず新しいやり方は抵抗される。ウィキペディアで慌てて調べると生存中にきちんと評価されたようで良かった。

堀井憲一郎は四書五経の調査。少し賢くなった。

林さかなは「長田弘の10冊」。詩には興味ないなぁと思いながら読んでたら無茶苦茶よかった。詩そのものもだけど、林さかなの柔らかい慈しみのある紹介がそっと支える様がよかった。津野海太郎はここにもいる。あと、調べていて、青山南のお兄さんと知ったのはちょっとびっくり。

でも、今月号で一番ビックリしたのは、アンケート葉書のお題「2021年上半期ベスト1」。えぇっ、もう2021年が半分過ぎるん…。

「本の雑誌 2021年6月号 – 林さかなの「長田弘の10冊」がよかった」への2件のフィードバック

  1. はじめまして。拙文を読んでくださりよかったという感想、すごく嬉しかったです。ありがとうございます!「本の雑誌」レビュー、新刊もバックナンバーもすごく丁寧で読みごたえがありました。同じ雑誌を読んでいるので、共感するところも多かったです。これからも拝読いたします!

    1. はじめまして。林さんの紹介は本当に素敵でした。
      今は、あえて時期も紙面の活字の感じも異なる2つ『深呼吸の必要』と『長田弘詩集』を購入し、交互に読んでいます。しっくり来るもの、さっぱりピンとこないもの、あっち開いたり、こっち開いたり。自分なりのスピードです。
      詩を楽しむ良い機会になりました。ありがとうございました。

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