本の雑誌 2021年7月号 – 高野秀行の『一九八四年』とミャンマー問題がとても良かった

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本の雑誌 2021年7月号 (No.457) / 本の雑誌社 / 667円 + 税
表紙デザイン クラフト・エヴィング商會 [吉田博美・吉田篤弘] / 表紙イラスト 沢野ひとし

特集は「笑って許して誤植ザ・ワールド」
Twitter では非常に盛り上がっていましたが、出版関係でないためか、誤植の切実さ、校正作業の大変さと、皆が共通で持っている「あるある感」に実感が伴わず、今ひとつ温度が伝わりませんでした。内容は楽しいんですけどね。

ちなみに私は1回だけ、「本の雑誌」に掲載されたことがあってそれはハインライン『宇宙の呼び声』の翻訳者表記間違いの指摘でした。1990年かな。カバーは正しいが表紙は間違っていたもので、後に訂正シールが貼られていましたね。

大槻ケンヂはリアル犬神明の後編。「それを言っちゃ~おしまいよ」の、ムー的なものをムー的なものとして楽しむ感覚がよかったです。そういえば最近知ったこちらの記事にも、確信犯的に青二才を演じるという「それを言っちゃ~おしまいよ」的なものが出てきました。

寄稿/大槻ケンヂ「青二才もの」の巨匠

あと、個人的にはここが最高でした。

「青二才もの」という文化ジャンルがあるとしたら、山田花子は間違いなく第一人者であった。その力量は、尾崎豊に勝るとも劣らぬといってもいい。

高野秀行は『一九八四年』を『ビルマの日々』視点から読み解き、現代のミャンマーの問題に着地させます。党員からプロールへの視線には、植民地支配の白人視線がベースにあり、それは現代のミャンマー市民を見る軍人の視線と同じだと。素晴らしすぎる論考。まったく「SF音痴」じゃありません。

新刊では、若干否定気味の吉野仁の紹介にも関わらず、作中作を語る作家と女性編集者のインサートが楽しそうな『第八の殺人』、高頭佐和子の「一行たりとも読み逃したくない」がしっくり来そうな繊細さ漂う松家仁之『泡』がよさそう。
話題の『三体Ⅲ』は購入済みですが、ゴールデンウィーク前から読み始めた『Ⅱ』がまだ下巻入ったばかりです…。

♪akiraは『スティーヴン・キング 映画&テレビ コンプリートガイド』。まったくノーチェックでした、ありがたい。白石朗が手伝っている、というのもわかった感があって良いですね。
べつやくれいは西寺郷太『プリンス論』を紹介。当時は「パープル・レイン」とか気持ち悪いだけだったのに、最近聴いたらいい曲だなぁとしみじみ思いました。変われば変わるものです。
下井草秀はパズル雑誌の紹介。そんなにあるんだ、誰がやってるんだ、と思い返すとたしかにたまに電車でやってる人いたね。
西村賢太が朝起きて机で原稿用紙に向き合っていて、少しだけホッとします。「今年に入ってから、まだ一度も腰痛の憂いに出会わしていません。」も嬉しい。

三角窓口に若い読者が多くて嬉しい。と言っても、10代や20代がゾロゾロという意味ではなく、50歳以下が目につく程度ですが、それでもひところに比べればぐっと若返り。いい傾向です。

円城塔は『ウィトゲンシュタインの愛人』。これ面白そうだったんだよな。藤岡みなみのタイムトラベル図書館は黒岩涙香翻案版の現代表記版『タイム・マシン 八十万年後の社会』。風野春樹は『式場隆三郎[腦室反射鏡]展図録』。楽しそうだ。ここで買えます。

瀬尾まいこの10冊は北上次郎。「読み物作家ガイド」をずっと読んだ来た中でベストで、北上次郎の凄さを見ました。『君が夏を走らせる』を中心に主流の作品、異色の作品を紹介して瀬尾まいこを浮かび上がらせつつ、『あと少し、もう少し』とつながる大田君を応援します。素晴らしい。

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