破滅派八号 – 閉塞感満載の号。アサミ・ラムジフスキー「雲を掴む日」と竹之内温「夜の機械」がよかった

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破滅派八号 / 破滅派 / 500円
発行 2011/11/3

2018年11月の文学フリマで購入した同人誌です。発行は2011年11月、東日本大震災から半年後です。震災は休止していた同人活動を復活させる程度にインパクトがあったのでしょうが、必然的にどの作品からも忘れていた閉塞感を感じることになりました。

感想

破滅ちゃんと堕落くん / 今日マチ子

メインの二人はもちろん、放射能から逃げてきた面倒な人たちの扱いも手慣れていて、とてもうまいです。破滅ちゃんと冒頭のとかげがかわいい。

[3・11震災特別企画]国家の終りとハードグリルド・アトミックビーフ

女川原発を眺めながら出荷停止処分になった牛肉を食べて内部被曝し、放射能まみれの海でサーフィンして、いろいろ感じてみよう…

アトミックBBQ / 高橋文樹

…という冗談と本気が混じりあった企画だったと思うのですが、石巻、女川の惨状に行動や思考が停止し、虚脱感そのままに綴られます。冒頭の「エブリバディ・イズ・有罪者」と、途中に挟まれるエピソードの一つ一に明確な答えがない点が特に印象的でした。あとメインの肉を食うシーンは相当の空腹だったろうにも関わらず何かの修行のようで、まったく美味しそうに見えません。この感は後の「最古の晩餐」で強まります。

そして「裁かれるための旅」は、サーフボードを抱え、いかにもふざけているのにも関わらず、警察に空気のように無視されたところで終わります。冒頭では無力感や罪悪感を読者に強制的に思い出させながら、ラスト、何の解決もせずに放り出すのは作者の計算でしょうが、あれから7年が経過し、すっかり社会の気持ち的に風化してしまっている現状を見ると、2011年8月が序章ではなく、クライマックスだったのは作者の想定外では? 被災地にすると「ふざけんな」でしょうが…。

ところで『美しい顔』の盗作騒ぎのとき、この作品は思い出されたのでしょうか? 震災を扱ったエッセイとしては一級品と思います。

最古の晩餐――断層をめぐる断想 / アサミ・ラムジフスキー

被災地で食べた出荷停止の牛肉から、ブリア・サヴァラン『美味礼讃』の美食学、食育、草食系男子等の食に絡めた思考を展開させます。上の「アトミックBBQ」で書いたようにタンパク質の摂取行為以下の食事に対する作者の、諦めきれていない思いが響きます。

SAWASONIC REPORT / 手嶋淳

高知の「沢田マンション」という、夫婦手作りのマンションの夏祭りの様子のレポート。文章からは喧騒や熱気が感じられず、滞在中に終始、筆者につきまとった「手作りの意味」への戸惑いが感じられます。

[掌編競作]国家元首にだけ許された秘密

緒の国 / 青井橘

物理的には橋で繋がれた島々は実際には孤立しており、くじ引きで決められた議長が全責任を負って外界からなにかを手に入れる。
「国家元首にだけ許された秘密」と言いながら議長の思考はダダ漏れし島民と共有されていたり、繋がれているようで孤立している島々など、関係の曖昧さを重ねながらも、全体としてはコミュニケーションを拒否していないからか、どこか幸せな未来を感じさせます。

優しき権力者の独白 / 佐川恭一

少子高齢化が進んだこの国では、70歳以上の老人は殺してもよく、20歳を超えて独身の女性はランダムに権力者にセックスを強制され、障害者、犯罪者は隔離される。
道義の問題を投げ出した青臭い主張には頷けませんが、「いざという時の決断力と、大きな責任を引き受ける度量」を持つリーダーは本当に「優しい」と思います。これは「独立の精神」を持つという女性を性的にも暴力的にも陵辱できず、逆に喜びを与えられてしまう点にも通じます。

雲を掴む日 / アサミ・ラムジフスキー

ラジオから流れてきた懐かしいメロディは「クラウド国王による王国第三国歌」だった。その元のメロディを考えていて思い出したのは10年前、「王国へ行ってくる」と消えた元彼のこと。
ラスト、彼の歌声を聞きながらの語りに彼への深い愛情を感じると同時に、「ただ、その濃密さは、今の私にとっては少々息苦しいものでもあった。」と、愛しきれない本音も描かれ深みが増します。クラウド国王は次の「国境線」の「自称国家」が表象したものと解釈しました。

国境線 / 手嶋淳

ここでの「国境」は「国と国の堺に引かれている」「シビアな境目のことではなく」、「国と「国でないもの」の違いのこと」。14の最小国家や、洋上の「自称国家」を紹介し、その理念や独立の度合いを紹介します。自称国家は理想優先型。金持ちの道楽にしか見えず、まったく空虚です。一方、最小国家の他国に依存してでも成り立たせ、どころかしっかり食っていっているのは強い。コブラの輸出でやっていくなんて想像さえできません。

夜の機械 / 竹之内温

地方に連れて来られている女性が車中で将来を憂い、希望のない未来像を描きます。好きな人だからこそ別れず「私も行く」と付いてきましたが、何度来ても好きになれない景色に彼女の思考はどんどん沈み、16歳のときに憧れた人生や恋愛はすべて絵空事と気付けるほどに成長した27歳の私には、予約制のレストランも、スーパーの品揃えも、自分の将来も正確に予想できます。
冒頭の数行で心を捕まれ、最後のブレーキでライフをゼロにされるまで揺すぶられまくりでした。上の「雲を掴む日」にも「二つしかチャンネルのないテレビ」や「どれだけカルチャーを愛そうとも、選択肢がないのだからどうしようもないのだ」といった地方あるあるが的確に描かれていましたが、こちらのそれは土着の肌触りや流れない時間までもが車中からの景色として表されました。

てん・てん・てんし / 小田ロケット

これもおもしろい漫画。オチが意外なのと、髪の毛の盛ってるところとか乳首とかかわいい。

[音楽祭「破滅フェス2001」リポート]

台風の中のフェスといえば伝説のフジロックフェスティバルが浮かびますが、YouTube を見る限り、紙面で語られているほどの絶望感は感じません。主催の飄々とした感じと、ロケット・オア・チリトリの本物の歌と演奏のせいですね。

ただ、「破滅フェス」はこの回きりで終わってしまったようです。ロケット・オア・チリトリの言葉を読むと、最初から想像していたような言葉で厳しいですが。

DIYとかそういう感じの時代 / 元エマニュエル・イタ子

フェスを超えて繋がっていて欲しいなと思いますが、ネットではその後のロケット・オア・チリトリの動向はわかりません。

王蟲の入滅ジャーニー / 王蟲妊娠教

進路の決まらない大学生が、「明るい未来なんて待っていない」破滅派のフェスに参加した理由は<移動>先を見つけたかったから。結論は戻った京都で出したのでしょうが、なんだか山梨の破滅コミューンが冒頭の女川のように思えてきます。

おしまい

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