破滅派 14号 – 長崎朝「改元難民」がタイトルも中身も良かった

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破滅派 14号 / 破滅派 / 500円
2018/11/25 発行

Sci-Fire 2018」と同じく2018年11月の文学フリマで購入した同人誌で、オンライン文芸誌「破滅派」の紙版。初めての「文学系」同人誌でしたが、よい意味でフツーに読める面白い作品ばかりでした。

テーマは「改元」。平成を振り返ったもの、新元号を予想するもの、改元そのものを扱うものといくつかのバリエーションがありますが、中では「平成」に適応できなかった「昭和」民を指す造語を作ってドラマを展開した長崎朝「改元難民」がタイトルも中身も良かったです。

長崎朝「改元難民」

昭和から平成への改元を拒む改元難民が作った宿営地に紛れ込んだ男と、出られない女。昭和な映画で見た貧民街を舞台とした男女のねっとりしたドラマ。

視点は交互に描かれ、男が常に観察者であるのに対し、女は中に閉じたままなのが強調されます。女は仮に連れ出してもらっても平成では生活できないのでしょう。ただし最後の男も昭和からは出られていないと思います。

佐川恭一「童Q正伝」

破滅派14号を知ったのは本作の評論からだったので楽しみにしていた作品。ネタは紹介の通りに笑えましたが、予想外だったのはキャラの立たせ方がものすごく上手いことと、なんだかんだの末の着地も上手いこと。ラスト、洛南高校出身の有名人を持ってきて読者を驚かせた上に、一文「平成が終わる。」と来て、それまでのうんこまみれ、精液まみれの文章から意外にも爽快なエンディングとなります。

波野發作「GENGOU – 平成なき時代のモノグラフ -」

破滅派14号の表紙には「大化」から「平成」までの元号が並べられていますが、その元号の歴史を振り返りながら次の元号まで予想してしまう作品。

元号が粗雑に扱われていた過去や、使われている文字や元号そのものの意味を説明した上で提案される新元号は理論的(?)な上に、皮肉が効いています。後続の「一休、応仁の花だより」には「これ以降、「 仁」のつく元号は二度と採用されなかったのは言うまでもない。」とありますがね。

藤城孝輔「平成と情熱のあいだ」

平成の沖縄を舞台にしたラブストーリー。思春期の男女では精神の成長差が大きく、それでも絶対値としての成熟度は未熟で、手を握ってほしいのに握ってくれない男も幼ければ、叶うはずのない遠い約束で安心させてしまう女も幼く、もどかしくて悲しい。

ところで沖縄に対する周囲のステレオタイプな反応は、同じことをやってそうで耳が痛いです。

大猫「一休、応仁の花だより」

京都を破壊する応仁の乱を背景にした一休と森女の話。一休の人間味溢れる軽やかさと森女に対する愛情が丁寧に描かれます。「応仁」「文明」の改元に気づく際のやり取りも楽しい。

工藤はじめ「失業した天皇」

制度が廃止され失業した元天皇は引っ越し屋のアルバイトをしていたところに会社から元号を「佐川」にして欲しいと依頼される。

詳しい中身は紹介できませんが、「破滅派」でしか成立しないバカバカしいネタがアクロバティックに決まりました。「精子が強い天皇」という、ただの皮肉と思われたキャラ設定がここに来るかぁ、という驚きもあります。

Juan.B「永久天皇」

ジェル・ベッドに寝かせられ、脳を「統合医療システム」と接続された初老の男はうわごとで「アイコ…」とつぶやく。長編並みの設定とキャラクターを揃えて一気に崩壊劇を見せてくれます。腹に忠心を詰め込んだ東の狂気さ加減が良いです。

しきめつ「少年■■万歳非宣言」

ケーニクライヒ学院の学生で、平安のため切腹させられたミカドと、介錯したX。殺されたミカドに嫉妬するトーマ。Xにもミカドに対する愛情があったと思うのですが、ミカドの死が正しいことが証明されてしまった後では、世の中を達観するしかなく、トーマの死に対して責任も何も感じません。

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