Sci-Fire 2018 – 甘木零の時代小説SFが素晴らしかった

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Sci-Fire 2018 / 破滅派 / 1000円
Cover Illust: Sei-Chan / Cover Design: 太田知也
https://scifire.org

初めて行った同人誌のイベント「文学フリマ」で買った「Sci-Fire 2018」。「ゲンロン 大森望 SF 創作講座」修了生が中心となったグループによる「SF文芸誌」だそうです。

まず表紙のイラストとデザインのできの良さ、高級感に驚きます。文学フリマのその他の出展でもまんま商業誌や普通の書籍みたいなのが多数ありましたが、その中でも上位に入る出来。紙質もしっかりしていて読みやすいです。

内容は短編9本以外はインタビュー、イラストなど。その中では飛浩隆の「働きながら書き続ける10の方法」が具体的で、社会人で趣味を続けている人なら誰でもウンウンうなずくことばかりで、作家志望者以外でも励みになります。

感想

「竜頭」トキオ・アマサワ

鳥や豚泥棒や人間関係に絡め取られ田舎から逃げられない男(達)は、時々殻を破る瞬間があるもののすぐ元の状態にもどってしまう。一方しのみちゃんは軽々とその場を逃れ「部外者」視点で観察する。キャラの対立する構図や背景が台詞でよく表されています。しかし、スピード感はあるのに心が空っぽの戦闘描写は痛々しいですね…。

「ノーライフハック」名倉編

定命の女の子に恋してしまう、永命の男の話。定命の女の子の死の次には、よく似た別の定命の女の子が登場するが、その子は過去の定命の子の生まれ変わりだと言う。後半のたたみかける展開と、妹キャラのポップで、ぷにぷに感あふれる文体が楽しかったです。

「GかBか(ガール・オア・ボーイ)」麦原遼

量子力学の観測問題とBLやGLを結びつけた作品。スリットに光子を通す実験まで出てきて笑わせてくれますが、オチは更にその一段上を行っていて、ちょっとやられました。

「ポンティアナック」太田知也

デング熱に母と生まれてくる妹を殺された兄弟。兄の復讐心は偏向し、弟は目を覚まさせようとする。ゲームシーンの背景描写やキャラの移動シーンがいいですね、弟の何気に残酷な設定も好きです(娘に妹の名前をつけるあたり)。ところで 0.23 の次は 0.22999 では?

「正岡子規全歌集 2900-2901」常森裕介

人が植物に生まれ変われる世界。友人を見送りながら生きる老いた歌人高浜潔の前に現れた、正岡子規を名乗る青年。説明も兼ねて挿入される短歌が良いリズムを作っていて特に最後の(潔)は効果的でした。あと死んで消えるのでなく、目前の植物になるのをどう詠むか、は深い疑問です。

曖昧だったので史実を調べたところ実際には正岡子規の弟子が高浜虚子。子規が34歳で亡くなったとき虚子は28歳で、85歳(1959年)まで生きています。

「スプリーム – Life Hack Edition」櫻木みわ

人類が哺乳類とミクスできる未来で美的方面に究極進化したスプリームの話。順人類との接触にあたる冒険の中で、本能を拒絶する形で抑えていた性欲や食欲が溢れ出てくるシーンが読みどころでどっちもうまいです。

「生き物、死に物」甘木零

冒頭のタエの言葉から最後の会話まで完璧に決まりました。忠祐の登場シーン、途中の少女らのシーン、タエとユキの会話それぞれがしっかりしていてこれだけでいいくらい。そこに最小限の説明だけで古典的なSF話を成り立たせ、オチまで決めてしまいます。これは素晴らしい。

「おいしいゴキブリの食べ方」高橋文樹

時代の変化に取り残され、解決策を模索する中で見つけたアイデアに飛びつく元カリスマ主婦の悲しい話。「私はコメディアンじゃないのよ」が効きました。メイン(?)の調理シーンも卵管の食感とか煮物の様子とか妙なディテールが生きていて作者狙い通りの下品さ。

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