ぼくは君がなつかしい ほろほろ落花生全集

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ぼくは君がなつかしい ほろほろ落花生全集 編集 高橋文樹 / 破滅派 / 2970円
題字: 伊藤良一 / 写真: たとり直樹 (STUDIO IKKEI) / ヘアメイク: 黒川陽平 (atelier MUCCU) / カバーディレクション: 榎波治樹 (ENACHAN GRAPHICS)

無名の作家、ほろほろ落花生の作品を収めた全集。、

巻頭詩と編者の序文を読んだ時には、何を読むことになるのかと恐る恐るでしたが、読了してみると、人生そのものが描かれていて、この詩人の才能や背景を紹介するには、全集という形式でしか行えなかったのだなと納得しました。

きれいな断面

初読では生まれてくる子どもらへの反出生主義的な突き放しとだけ読んだけど、全編読み終えてから再読すると、作者の女性への接し方に共通する姿勢が見られます。人間に興味がないような感じ。

ほろほろと生まれ変わる(高橋文樹)

これも初読と印象が変わった部分。「就職氷河期」や「性被害」のキーワードのため、そちらが中心かと思ったらそれはあくまでサブ、というか補強。恐らく編者は長く作品群に触れ続けた結果として足らない部分を埋めただけで、本書の目的はあくまで「人生のすべてが書かれている」書物を作るということ。編者の試みは成功しています。
で、私の心が壊れたか? 壊れてはいませんが、それは先輩のように「距離感」を大切にしているからでしょう。

ぱるんちょ祭り

亜津佐と名乗る女性からの間違い電話から引き起こされる事件。後半、亜津佐の正体が分かってから「渚のバルコニー」まで失笑の連続。が、本書を読み終えてこれがフィクションでなく、どこらか永遠の傷を残していることを知り、編者同様、愕然とします。

『田園交響楽』研究

非常に面白く読みました。ピグマリオン・コンプレックス、三種の隠蔽、「見る」ことに関連する文献の紹介と解読。丁寧で、分かりやすい。中地先生の良い評価に喜ぶ姿も微笑ましく、「クロニック・ペイン」などなければ、本当に別の人生が始まっていたと思います。

Re:現代文

ひねり過ぎててちょっとなぁと思いました…

Re:現代文解答例

…ら、みな素晴らしく真面目に取り組んでいて純粋に驚きました、こんなふざけた質問なのに…。

最初の夜明けのスキャットの回答が素晴らしくて感心して読み直し、以後のぱるお、?? の回答も同様で、同人誌に集ったメンバーの国語能力に改めて感心しました。

ていうかさ

強烈に皮肉が効いていて笑いながら楽しく読みました。そりゃ三ツ野は怒るわ。

なお、ここまで編者による解題を読んでいましたが、「正しい」読み方を限定されそうなので以後は読まないようにしています。後で読みます。

対話篇

不明。恋人になれない友人どおしの会話と読んだがどうか。

救出

いい作品。何を語っているのかが分かると、ぐっと情景が立ち上がります。最後の猟師の表情には、カバー写真の筆者の顔がだぶりました。

だるま落とす

不明。筆者がこだわっている擬声の実践か?

(解題を読み、おぉとなりました。そういうことか。凄い。あとタイトルから気づけ夜、俺)。

クロニック・ペイン(高橋文樹)

慢性疼痛、新日鐵退社、ロスジェネ。「何者でもなかった」私たち。ここで作者と編者の関係が恐ろしいまでの彩度で詳述され、破滅派の興りやその背景までもが分かります。
本書で数少ない人間味のある部分が「その行為には惨めな打算がたっぷりと塗りたくられていた。」(後には「口臭のきついBBA」(p.460)としても登場する)。残酷な表現ですが。

ぱるんちょ巡礼記

日常を淡々と描く中、厳しい諦めの感と焦り、過去の振り返り。その中でいぬのおまわりさんのようなユーモア(p.199)、女性との積極的な関わり合いの苦い思い出(p.231)、そしてp.44 以降で繰り返される夜の海がとてもいい。

ふたり

練炭自殺しようとしている二人。友情を超える描き方に心中を思わせます。キーワードとして出てくる「ゆずらうめ」が次に繋がるが、意味は不明。

ゆすらうめ鉱

ぼんやりしたイメージを描く詩…

時計

…と思ったらその解題編のような小説。不思議に魅力のある作品。

リバレイト

「クロニック・ペイン」にライター落合との流れで触れられているが(p.181)、より一般的な遁走癖や自殺願望とつなげて読みました。

ざくろ

タプティムの必死さが胸を打ちます。筆者は何も彼女に対してだけでなく、すべての女性に対して同様の不思議な攻撃性を示すことが後半の書簡でわかります。

幸福の回収

怒りなんだろうな。数年ぶりの友人らとの小旅行も劇場にまみれた反応。

コール・ミー(高橋文樹)

亜津佐 = マスダコウジによる犯行のあらまし。創作かもという思いがずっと頭の片隅にあり、実際編者も同様に疑っており、仮に事実だったとしても解決済みと思っていたようですが、後半、長岡さんに宛てた文章で真実とわかります。

犯人

「反出生主義への傾倒」そのままの作品。ここで流れが変わり読者は戸惑い、直前の性被害を思い浮かべます。

布告

「ぱるんちょ巡礼記」に比べて、メッセージ性が全面に来て厳しい。偶然(?)良かったのが「私が神であるなら、辞表を提出する。」(p.349)
本題とは関係ないが現実を忘れるために架空のパーティを企画する小公女セエラに対するミンチン先生の言葉がひどい。「何か心にこたえることをしてやらなければ」」(p.328)

最後の文学者

泉さんとの会話。不明。筆者の一人二役、将来像との対話に感じられる。

イノセントほろほろ

編年体の本書なのに、無垢な文章を後半に持ってくるのは編者のアイデアか。どの文章も最後の一文の凄みが大人のようで驚きます。

書簡ほか

といい気持ちになっていたところで、書簡でまた落とされます。先輩との絶縁、女性への意図的に冷徹な言葉の選び方等々。作者の紹介に「カスタマーサポートやSNSで高度に面倒くさい絡み方をする人」が加わることを知りました。アマゾンのアカウント停止は本人の意思なのだろうか?

略年譜

これまであまり登場しなかった父親の家庭内暴力を知ります。疼痛、性被害も最悪だったろうけど、これも大きな要素だと思う。「スプラトゥーン2」に激昂する息子に苦情を言うしかない老いがつらい。

オプンティア

1作品の中で筆者の人生そのものをなぞるようなドラマが起きます。最後の2行にはわずかな希望を感じたがどうか。

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