本の雑誌 2022年6月号 – 西村賢太愛を感じた追悼号

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本の雑誌 2022年5月号 (No.4676) / 本の雑誌社 / 1000円 + 税
表紙デザイン クラフト・エヴィング商會 [吉田博美・吉田篤弘] / 表紙イラスト 沢野ひとし

特集は「結句、西村賢太」

連載「一私小説書きの日乗」は楽しみにしていたものの、芥川賞受賞作『苦役列車』さえ読んだことがなく、人間的に面倒くさそうな人だな、位の感想しか持っていませんでした。「北町貫多」も「秋恵もの」も今回初めて知りました。なので、この追悼号にも、編集者座談会や縁故の方のエッセイで偲ぶんだろうな、くらいの軽い期待。
ところが無茶苦茶面白かったです。
まず、冒頭の「藤澤淸造全集内容見本」から立ち昇る狂気、特に、膨大な年譜に付された「大大略年譜」の断り書きに圧倒されます。知ってはいたもののその熱量は想像の倍でした。その後、様々な紹介から見える、「実はあの人はXXだった」だけでは終わらない多面性、あれだけ几帳面な日記を書きながら、部屋は乱雑で、紙袋に藤澤淸造実筆原稿を突っ込んでいたそうで、そうした諸々から見える得体のしれなさ。やっぱり「私小説作家」を演じていたんですかね…。喜国雅彦と日下三蔵の古本話の話がとても良く、この対談のときだけは演じなくて良かったのかなと思います。
読書ガイドでは、杉江由次の北町貫多クロニクルには、内容見本への返歌に思える執念を感じました。堀井憲一郎は間に合わなかったようですが、こちらは来月に期待します。
生きてるときにこの特集をやってあげてれば…と思わなくもないですが、きっと激怒したことでしょう。あと、西村語の「慊い(あきたりない)」を覚えました。

♪akiraはエラリー・クイーン『フォックス家の殺人』と、ドレフュス事件の映画化「オフィサー・アンド・スパイ」の紹介。冤罪事件をひっくり返すってエンターテイメントよね。

値段と内容で気になったのが藤ふくろうの紹介するロドリゴ・フレサン『ケンジントン公園』狂気をはらんだ情熱で語りまくる4,200円。まったく興味はそそられないが、怖いなぁ。

大槻ケンヂは「映画秘宝」の思い出。私も最初に手にしたとき、キネ旬でフラストしていた気持ちはこれだったんだなぁ、と思いました。出来の悪い映画を、純粋に面白がる視点を自分以外に持っている人が自分以外にも存在して、しかもそれを言語化してくれるんだとという驚きと喜び。
「メガフォース」は、ハル・ニーダムの「キャノンボール」の次の監督作として雑誌にも広告が出ていて凄く観たかったけど、なぜか未見。もう観ることもないかな…。

服部文祥の前半は、北米に移住したゲール語圏一族にみる、代々受け継いだ自転車操業のような暮らしに惹かれること。ある一時点を切り取ればノスタルジックだが、ゼロからそこに至るまでの過程はたしかに面白い。あー、「大草原の小さな家」か。急に安いな。後半は『三体』なのでスキップ。早く感想にまとめねば。ちなみに、その世間の高評価に反して私は三部ともあまり感心できませんでした。

川口則弘の文芸記者列伝は柴田勝衛。自分は安全なところからけしかけ続けるって、一つの生きる道と思うがな。決して尊敬できないし、かっこ悪いけど。自分を語らないってところもわかってやっている感。本当の無能なら威張るよね、この手の人は。

V林田は豪華な食堂車事情を『鉄道の食事の歴史物語』から。歴史的にも、経済的にも縁遠い世界ですが、やっぱり憧れます。

鏡明は『桜前線開架宣言』が、短歌へのすばらしいガイドになってくれたと丁寧でわかりやすい説明。「かな」と「けり」を使わずに詠嘆を可能、とかいいなぁ。こんな私でも興味が出ました。

円城塔が紹介するのは『AI監獄ウイグル』。ウイグル自治区に張り巡らされた電子的な監視網のこと。元々は住民管理システムがなめらかに監視に移行したものとか。やれ、こんな事になっていたのか。

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