いい曲だけど名前は知らない – さまざまな作風を楽しめる掌編集

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いい曲だけど名前は知らない – 高橋文樹自選掌編集/ 高橋文樹 / 破滅派
Kindle 250円

作風の異なる様々なジャンルを集めて作者の引き出しの多さと上手さを喧伝するショーケースのような掌編集。
冒頭と最後の心を折られそうな詩の間に人間味のある小説や「不条理」な小説が詰め込まれています。

朝のきたい

「こんなはずじゃなかった」
誰もがそう思いながら、毎晩子供に申し訳ないと思いながら、日々生きていくんだよなぁと、かなり辛い導入。読むのを一時中断しました。

マスターピース

ブラジル人床屋さんとの何気ない、でもどこか緊張を帯びたやり取りが悲しい事件のため途絶えてしまう。1回だけしか行われなかった「最高傑作(マスターピース)」への挑戦を息子の写真とともに思い出した主人公は何かを始めなければと思いながら床屋を再訪する。平凡な人生の深刻さがなくなることはないけど、軽くなることはあるんだなと実感させる作品。「朝のきたい」の次に今作を置くあたりに、作者の優しさを感じます。

教会にて

赤い僧衣と白いカーテンの対比が鮮やかです。きっと空は真っ青で、温度は高い割に湿度は低く、周囲はシーンとしているのでしょう。映画の場面のよう。
神父は手元に無線機を隠し持っているのかしらん。

女はすぐに終電を忘れる

エロ小説かと思って着地に期待していたら、ド直球のヴァンパイア小説。海外のモダンホラーアンソロジーにありそうな肌触りと展開でした。

大人はゆずってくれない

深刻な状況なのに、笑っちゃう作品。

丁寧な女体盛りの前書き

超グロいモダンホラーの設定で始まった不条理小説が、作者の弁明の途中で自己完結してしまい、繊細で美しい小説に変化してしまいます。背景には強い問題意識があり、それをわかりやすく伝えただけなのでしょうが、それにしても後段の小説の美しさと、前段の意識的に度を越したグロさ。うまい。

小僧のザリガニ

少年期特有の視野の低さや狭さを、 小さな所作や気持ちの高まりと不安を丁寧に描いた作品。

僕は不倫をしたことがない

楽しい小説。硬い音を立てて飛び跳ねる七味唐辛子に笑ってしまいます。

いい曲だけど名前は知らない

罪を背負い、人生の重要なことを自分から降りることでやり過ごし生きてきた並河が出会った完璧な喫茶店と女のマスター。ユカさんの抑えられない感情を目の前にして子供のことだろうと推測する並河が悲し過ぎて、もっとこう器用に生きられないのかと思いました。

てぶくろのきらいなひと

何にそんなに隠れているのだろう?
家族を守ることでしょうか、正しく生きることでしょうか。家族が横にいてくれるのだから、もっと自信を持てばいいのに…。

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