本の雑誌 2019年1月号 – 新人高野のじゃんけん力で1位は『古本屋台』

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本の雑誌 2019年1月号 (No.427) / 本の雑誌社 / 815円 + 税
表紙デザイン クラフト・エヴィング商會 [吉田博美・吉田篤弘] / 表紙イラスト 沢野ひとし

特集は「本の雑誌が選ぶ2018年度ベスト10」。
選考会議の土壇場で Q.B.B.『古本屋台』が登場し、国分拓『ノモレ』と意見が別れた末にじゃんけんで1位を獲得。じゃんけんと言えば小野不由美『図南の翼』が2位になって目黒考二に非難が殺到したのを思い出しますね。3位は姫野カオルコ『彼女は頭が悪いから』。

1位の Q.B.B. って誰だろうと思ったら、久住昌之と久住卓也のユニット名だそうで、漫画です。以下のリンクから試し読みできます。
http://renzaburo.jp/shinkan_list/temaemiso/180406_book03.html
面白いし、妙な懐かしさがあるし、「本の雑誌」にはぴったりだけど、1位は紹介の意味でもっと地味な『ノモレ』で良かったんじゃないかなと思います。
中山可穂を推しているのは高頭佐和子だけじゃなくて、営業Bの浜田もだったんだと妙に納得。
松村さんの飛浩隆『零號琴』の紹介がいいです。「難しい話なのかなと思ったら、めちゃくちゃノリが軽いんですよ。(中略)それでいてこんなのどこから出てくるんだっていうイメージの奔流がすさまじい。」 あと、1920年代のイギリスで隣の貴族の息子と情事を持つメイドの話、スウィフト『マザリング・サンデー』。これは佐久間文子も挙げてて気になりました。

その純文学ベスト10は、ジャンルを超えた主人公の生き方への共感や反感が詰まった紹介。
栗下直也のノンフィクションベスト10は既知の本が多いのですが、それでも改めて読んでみようかと思わせてくれます。読みどころの切り取り方が上手いんでしょうね。あと後半のキツイ題材の前につかみで軽いものを並べる構成とか。
鏡明のSFベスト10は、円城塔『文字渦』、スティーヴンスン『七人のイヴ』、飛浩隆『零號琴』、ケン・リュウ編『折りたたみ北京』がトップ4。下位もシェパード『竜のグリオールに絵を描いた男』、草野原々『最後にして最初のアイドル』と、珍しく知っている本が並びました。「破滅」「言語」「ばか」。単体でもいいキーワードなのに揃うともっといいね。
読者のおすすめ本ではシュテンプケ『鼻行類』。いつか読みたいと思ってもう何年だろ…。

椎名誠の「世界無目的旅に腰の重い若者たち」という表現がよいですね。

大森望の新刊ガイドを眺めていて、評価に関係なく新人の作品を意図的に取り上げていることに気が付きました。少しだけ同人誌とその周辺に触れたのでわかったのですが、ずっとなんですよね、きっと。素晴らしい。

仲野徹の紹介する沼田治『ノーベル賞に二度も輝いた不思議な生き物』、副題「テトラヒメナの魅力」は、その作者や本の魅力がよく伝わる紹介でした。あとアメリカの政治はトランプが悪くしたのではなく、政治状況がトランプ的なものを受け入れるように悪化したと説くレピツキー&ジブラット『民主主義の死に方』も良いです。

レナード『オンブレ』は池上冬樹、田口俊樹が挙げた西部劇。訳者は村上春樹。内容と訳者が合ってるのか違和感を感じましたが、この二人が褒めているならばっちりなんでしょう。

深町眞理子が「近年はご無沙汰しているものの、前世紀にはキング訳者のひとりであった」と、ちょっと寂しいコメント。『スタンド』に時間を掛けすぎて編集部サイドに敬遠されているのかな? とも思いましたが wikipedia のリストを眺めていると21世紀初頭は仕事のペースを落としたようにも見えます。「眼の障害で最近は」とも書いているし、あまり体調面が悪いのでないといいがな。

アイカー『死に山』は複数人が取り上げています。ここまで評価が高いと、先月号で風野春樹はどこに疑問を思ったのか詳細を教えてほしい。意地悪で言っているのではなく純粋な興味です。

山本貴光が紹介するマルジナリアはバッハ「クラヴィーア練習曲集」初版にバッハ自身が書き込んだもの。
https://gallica.bnf.fr/ark:/12148/btv1b550059626/f39.image.r=bach%20clavier%2017669
そんなものが実存することに驚きましたし、そもそも楽譜の印刷ってそんな昔からやってたんだと驚きました。これは活版だろうけど、そうか木版で楽譜を刷ってた時代もあるのね。じゃぁ音符はいつできたんだ? と思って調べると1025年には原型があり、「楽譜的なもの」になると紀元前。ええっ! となりました。

鏡明がハーラン・エリスンを10代でも60代でも勃起させたと紹介するベティ・ページってどんな女性? と思って検索しました。
ら、予想通り前時代的なアメリカンな女性でした。

堀井慶一郎はこの1年間の「少年ジャンプ」の連載で打ち切られた作品の振り返り。きっちり読んで、きっちり評論してます。引き出しの多い人だな。

今月は終わりかなと思ったら最後にドカン。

読者の探索本

はるか未来、落語、寄席が存在する宇宙で、宇宙さえゆるがす「究極の落語」をめぐり落語家たちがタイムスリップ。「現在」にある「究極の落語」を探す

このなんとも魅力的なストーリーながら、「1980年代出版の今でいうライトノベル」というハードそうな質問に日下三蔵がずばり回答。今、Google でその書名を検索してもヒットは1310件。凄い!
ちなみに「おすすめ文庫王国2019」では日下三蔵が編集した作品が読者から絶賛されています(p.10)

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