本の雑誌 2018年11月号 – 北村浩子の冒頭の導入にブンブン頷きました。

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本の雑誌 2018年11月号 (No.425) / 本の雑誌社 / 667円 + 税
表紙デザイン クラフト・エヴィング商會 [吉田博美・吉田篤弘] / 表紙イラスト 沢野ひとし

巻頭の「本棚が見たい!」は早川書房編集部の小塚麻衣子。お祖父さんの代からの書棚に、お父さんが整理した本や雑誌が並びます。きれいに並んでいるのに、どこか雑然とした等身大な感じがリアルです。

特集は『最強ロボット選手権!』。ストレートな内容で可もなく不可もなくって感じでしたが、中では最強ロボットトーナメント座談会の組み合わせが笑えました。いつもは後半グダグダになるのに、今回は優勝者も含め不思議な説得力がありました。逆に一番ダメだったのが、と言うか、へ? これで終わり? となったのが「バーナード嬢曰く。」。うーん、いつものキレはどこに行ったのだ、せっかくの「本の雑誌」なのに、もったいない。

藤脇邦夫は『笠原和夫傑作選』。映画の脚本を読んだことがありませんし、そもそも読むものという意識がありませんでしたが、こうまで映像を表現できるものなのか、と驚きました。映画監督が「どのように演出すればいいか困り果てた」なんて凄いですよね。「大日本帝国」の舛田利雄らしいですが。

太田和彦は神戸文学館の紹介ですがその多くが引用。北村薫も引用がほとんどですが、それで遠藤周作のストーリーを作るのと、ただツラツラと作家を紹介していくのとでは感じ方が違います。久坂葉子は興味深いけど。

新刊では中国初の本格百合ミステリー陸秋槎『元年春之祭』、台湾の作家 王聡威による日本の悲惨な事件を下敷きにした『ここにいる』(母親の語りパートは怖そうだ)、レム、イーガンの向こうを張るらしい高島雄哉『ランドスケープと夏の定理』、若林踏が推すすべてのミステリー(どうやったら着地できるのか想像もつかない話が並びます、例えば島田荘司『鳥居の密室 世界にただひとりのサンタクロース』とか)と、いろいろ面白そうですが、特に岩井圭也『永遠についての証明』が、数学者の苦悩や証明を描きながら理系オンチの北上次郎に評価されているので、どんなドラマが描かれるなのか興味があります。

不定期刊の女性誌「Maybe!」は特集がウラジオストクらしい。編集者が好きに作っている感じを原カントくんがうまく紹介しています。

速水健朗は「国道沿いの人生」として吉田修一『悪人』を紹介。福岡住みには馴染みの地名が多いし、国道に縛られる感覚というのも宮崎県人にはよくわかります。山本直樹で似たような短編がありましたね。
で、岡部愛が紹介する『36度』の作者ゴトウユキコに影響を与えたのが山本直樹らしい。お、これは買わねば。

『文字渦』の円城塔が「美しい活字への道」と題してフレット・スメイヤーズ『カウンター・パンチ』を紹介。将来的にはアニメーションするフォントを志向すると、絵文字の延長線上にいかにもありそうな発展。もっと動くのかな? 単語が走っていったり。うーむ。

秋葉直哉は、編集工房ノアの栞から港野喜代子の言葉を引用
「自分の中の切れ切れの時間、切れ切れの思い、切れ切れの勉強、切れ切れのしごと」
「切れ切れにしか詩を書くことができない日々を憂えながら、しかしその徒労を恐れていては詩を書けないのだと、揺るぎのない強い意志を綴ったエッセイ」。
読んでみたいと思って『港野喜代子選集 詩・童話・エッセイ』を検索すると新刊はなく、古書で6000円ですか…。

北村浩子は長嶋有の10冊。「感じられる」10冊。中では『三の隣は五号室』の、キャラ立ちさせない連作ってのに無茶苦茶惹かれます。部屋に残された痕跡でつなぐってのがいいですね。また、吉田戦車やよしもとよしともが参加した『長嶋有漫画化計画』を知ったのも嬉しい。
ところで冒頭の「普段、言葉にせず(しようともせず)過ぎ去ってしまう気持ちを本の中に見つけるとハッとする。」に続く数段落には、こちらがハッとさせられました。素晴らしい文章。

堀井慶一郎は「流転の海」の紹介2回目。相変わらずのふざけた文章ながら、宮本輝に対する深い愛情が見えます。

山本貴光が紹介した大英博物館所蔵のマルジナリア…というか挿絵はこちら。画面右上のドロップダウンボックスで「f.27v」を選択すると表示されます。

http://www.bl.uk/manuscripts/Viewer.aspx?ref=harley_ms_2886_fs001r

そして青山南の紹介する「ニューヨーカー」のトランプが表紙のものはこちら。

https://www.google.co.jp/search?q=trump+cover+new+yorker&rlz=1C1CHZL_jaJP743JP743&source=lnms&tbm=isch&sa=X&ved=0ahUKEwjI5dOE56beAhUC77wKHRLKAl8Q_AUIDigB&biw=1180&bih=635

ついでに、三角窓口で遠藤雅彦さんが紹介しているBBC の「積ん読」紹介記事の日本語訳はこちら

https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-45002434

友人で電子書籍を積ん読している人間がいますが、あれは罪悪感が半減しそう、というかほとんど罪も浪費したお金も感じなさそうで怖いな。

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