本の雑誌 2017年11月号 – 30年間書い続けても埋まらない書庫!

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本の雑誌 2017年11月号 (No.413) / 本の雑誌社 / 667円 + 税
表紙デザイン クラフト・エヴィング商會 [吉田博美・吉田篤弘] / 表紙イラスト 沢野ひとし

特集は「書庫を建てよう!」

と言っても書庫を建てられる人がそう何人もいるわけもなく、メインは2000万円で庭に書庫を立てた SF評論家水鏡子の話。これが無茶苦茶おもしろい。
以前の連載でも明かされていたように買うのはいつもブックオフの108円本。それを1年間で2000冊も買って溜め込むのですから、そりゃ自宅をどんなに改装しても足らなくなりますよね。
で、建てた書庫は10万冊収納の、真っ白で窓もない「蔵」。中には書庫とクーラーのみで、玄関ドアが開けられなくなったとき用に中から鳴らせるサイレン付き。現在4万冊が埋まり、空きは30年分。死ぬまで買い漁っても埋まらない空間です。軽々しく「羨ましい」と言えない神聖なレベル。
で、中身は SF やらラノベやらが主。ちなみに「いまのラノベのレベルは高い」らしく「何を読んでも昔の二流の大衆小説よりは面白い」そうですよ。本気で過去すべてのラノベを網羅しそうな勢いです。冒頭のカラーページ「本棚が見たい!」であと数ページほど割いて全貌を見せてほしかったですね。

特集記事のそれ以外では、小野純一の本の保存方法は簡潔で分かりやすいアドバイスでした。湿気に注意し、本を積まずに立てて保存し、定期的に棚を掃除する。できるだけ守っていきたいですね。

新刊ではリセッション状態のアイルランドから出てきた『ヤングスキンズ』と、ベストテン年度末に合わせて出版された SF から『ジャック・グラス伝』と『ネクサス』が良さそう。
若林踏の推す『ヒストリア』『地獄の犬たち』『機龍警察 狼眼殺手』は、どれも血が沸き立つ体験はできそうですが、途中、厳しい読書になりそうで躊躇われます。

島田潤一郎は銀座蔦屋書店を褒めつつ、店舗併設のスタバをなんとかしろと苦言。完全に同意です。あれだけの美しい空間を作りながら、どうして未購入の商品をコーヒー片手に読ませられるのかまったく理解できません。

西村賢太の自信に満ち溢れた文章が素晴らしい。146枚の「原型」を完成させて
「今回も、いつも通りのもの。無論、卑下ではない。その逆だ。」
こんな言葉が、女を買いに行く話が並ぶんだから、ほんと絵に描いたような私小説家です。

内澤旬子は麻布テーラーでスーツを作る話をしていたのに、最後はバーニーズの鴨田さんの話。生地や縫製もそうですが、フィッティングも価格ってことだよな。

山本貴光は本への書き込み「マルジナリア」を紹介する連載で、今回は夏目漱石。作家の個人全集の最後の方には蔵書目録やら、その蔵書に書き込まれた短評や雑感までまとめてあるの!? とまずはそのことに驚きますが、漱石のマルジナリアにはもっとびっくり。「ツマラヌ」「コンナ logic ガ何処カラクル」「然リ余モ同意見ナリ」等々。えー、こんなフツーの人と変わらない書き込みなの? って驚かされます。
ちなみに私はコンピュータ系の本を読みますが、スクリーンショットとの相違やバージョンアップ等の関係からか誤植が多く、そのたびに右上隅、または左上隅を折って、中に書き込みます。ひどい本だと上部がガタガタです…。

読み物作家ガイドは佐藤正午。何となく七面倒臭い作家を想像していたのは佐世保から出ないという噂と『永遠の1/2』という純文学臭のタイトルからですが、こんなにバリエーションに富んだ作家だったのですね、三橋暁の紹介もうまいのでしょうが。直木賞受賞作『月の満ち欠け』も傑作らしいので、何かに手を出してみようか。

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