言の葉の庭

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言の葉の庭

監督、脚本: 新海誠
出演: 入野自由、花澤香菜
※ 数本まとめて観た全体の流れはこちら

冒頭から都会や電車の美しさと、緑と雨のみずみずしさに打たれます。「君の名は。」でも三葉が最初に都会を見るシーンや木漏れ日の美しさに驚きましたが、本作はそれ以上のリアルさ、濃密さで迫ってきます。途中に挟まれた烏のシーンで点滅するライトの催眠術的な美しさも忘れられません。

そんな美しい背景に描かれる話は一見シンプルです。性格や容姿は大人びていながら、内面はまだ少年のタカオが、淡い恋心を抱く相手は、昼間から勤め先をサボり、ビールを飲む年上のユキノ。自分に自信を持てないタカオは、不安定でいっぱいいっぱいの気持ちを、靴作りとその準備のためのバイトに向けます。一方、インサートされるユキノの語りや視線は人生に疲れた女性のそれ。ベッドに突っ伏したり、駅でため息をつく、息苦しい描写が続きます。

ユキノは自殺直前までの苦悩をタカオに打ち明けるほど子供でもなく、逆にタカオにはユキノの悩みを感じ取れるほどの経験がなく。

そうした二人の、危うい関係はユキノの部屋でクライマックスを迎えます。ここでセックスとまでは行かず、キスでもしていれば、そのまま「秒速5センチメートル」になったのかもしれません。

少年らしい愚直さと大胆さで打ち明けるタカオ、顔を赤らめながらも思わず大人の対応をしてしまうユキノ、自分の幼さを目の当たりにして出ていくタカオ、再び開いた胸の空白に思わず飛び出すユキノ。バックに流れる音楽と激しい描写。怒涛のクライマックスと静かで温かな余韻。

ユキノの感情の爆発と背中に回したタカオの手の優しさから押し寄せてくる、途方もない開放感と安堵感に、私は大泣きしました。観終わった後も、1週間後も、気がつけばこの映画のことを思い出し、頭のなかでは秦基博の歌う「Rain」が鳴りっぱなし。こんな経験は過去、映画でも本でもありません。傑作です。この歳になってマイベスト映画が見つかるとは!

感情はこれほど揺さぶられるのかと驚くほどの激しい想い、不思議な脱力感、胸がいっぱいで食べ物が喉を劣らない感じ。考えてみると「君の名は。」を観たときも同じような感情がセットでやってきました。これが新海誠の力なのでしょう。凄いです。

そういえば新海誠は小説も書いていますね。昨年「小説 君の名は。」がベストセラーのときは、恥ずかしながらノベライズか、と軽く見ていた不明を恥じます。今は、特に「小説 言の葉の庭」が相当に分厚い小説だと知った今は、映画を補完するストーリーになるようなので期待しています。

追記

紀伊國屋書店で展開していた新海誠本フェアの『小説 言の葉の庭』に、ユキノは『君の名は。』の古典の先生とありました。うわー、本当ですか!? また「君の名は。」を見ねば…。

P.S. 買いました。

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