君の膵臓をたべたい – 選び取るのは自分

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君の膵臓をたべたい

著: 住野よる
双葉社 / 1400円+税 / 2015
装丁: bookwall 装画: loundraw

僕は偶然に彼女の日記を読み、彼女の秘密を知る。

 

「誰も、僕を許してくれなかった。」

そりゃそうですよね、いくら待っても誰も許してなんかくれません。文庫本に答えが書いてあるわけもなく、選び取るのは自分です。

自分の名前がどう呼ばれるのかを自己解釈で推測し続け、「?????」と分析不能なところまで来たのなら、そこから先に思いを巡らすのも自分です。

ただ残念ながら僕も彼女も本心をさらけ出せるほど大人ではなく、かと言ってどこにも吐き出さず溜め込んで置けるほど表現力のない子供でもない不幸。僕は寝たふりをしている彼女に気づかないし、彼が気づかないことを頭では分かっていても彼女は行動に出してしまいます。

最終的には僕は成長するし、彼女も僕が成長したことに気づくので、最後まですれ違いではない、ある意味の幸せな結末です。僕は多分許すことさえも覚えたのでしょう、友達と旅行もできたのですから。

 

作者はひたすら親切です。タイトルの謎は冒頭で解けますし、起きた事件はすぐに解決します。僕の名前も、彼女の真意も、本文中にかなり程度のヒントを残しつつ、最後にはすべて明かされます。人物造形もストーリーも明解。「最近の小説」なんだろうな。伊藤計劃の読後と似た感情。

その親切が不足したのが最後の事件。読者の誰もが彼女が来ないことを既に想像した後なので、そこに事件をぶつける必然性があったのかどうか。単に突然、倒れただけではだめなのか。また事件をぶつけるのであれば、もう少し読者を安心させ、油断させたところで突き落とせばよかったのでは。ちょうど、かばんの中のものを見つける衝撃的な場面のように。

短い描写にも関わらず両親の思いやりや、ガムの好きな友人の素っ気なさは気持ち良いうまさで、主役級の行動や台詞が中2病な分、引き立った感じ。こっち方面をメインの、もう少し不親切な作品も読んでみたいですね。

 

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