本の雑誌 2017年6月号 – 「エルム街の悪夢」はダラスでないのでは?

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本の雑誌 2017年6月号 (No.408) / 本の雑誌社 / 667円 + 税
表紙デザイン クラフト・エヴィング商會 [吉田博美・吉田篤弘] / 表紙イラスト 沢野ひとし

特集は「そこに山の本があるからさ!」。

山の本と聞いてもピンと来ず、せいぜい杉江松恋のページのような山岳冒険小説を思い浮かべる程度でした。もちろん山の事故で死ぬ人がいることは知っていましたが、先日の雪崩事故のような不幸な事件が過去にも繰り返されていたり、二人が宙ぶらりんになった状態から片方が生き残るためにロープを切るかとか、仲間を見捨てられず一緒に凍死するとか、漫画や映画の中のような生と死が紙一重の世界が実際にあって、しかもそれが文章化されていることにまず驚きました。事故死のニュースを聞いても「ふーん」だった田部井淳子にも、エベレスト登頂の際の苦い経験があったのですね。

こうした山のドラマが背景にあるためか内容は直球勝負。座談会も読者の一押しも熱く良い特集でした、唯一のおちゃらけ企画、おじさん二人組による山と渓谷社ビル登頂もシェルパの登場で大笑い、突き抜けて決まりました。

中で一番良かったのは鈴木毅のロイヤル・ロビンスとウォレン・ハーディング、映画「VALLEY UPRISING」の話。50年代アメリカ文化における分かりやすすぎる対立の構図とオチがいいです。

今月は新刊に面白そうな作品が多数。めったくたガイドでは ♪akira のおすすめ全部、すなわち『Gマン 宿命の銃弾』『眠る狼』『007/逆襲のトリガー』『コードネーム・ヴェリティ』、そして『人生の段落』(と『終わりの感覚』)、『人はアンドロイドになるために』、『彼女の色に届くまで』、『十代に共感する奴はみんな嘘つき』、『地下道の鳩 ジョン・ル・カレ回想録』、『ダークナンバー』。後ろのページから『ブラックボックス』、『巨神計画』など。

宇田川拓也は『フェイスレス』の紹介で「まだ “R” のついていた頃のクーンツがお好きなら、迷わず飛びつくべし!」とわかり易い表現。”R” のついていないクーンツって好きな人いるのだろうか?

穂村弘は「最適読書年齢」。ありますよね、最適な年齢。私の読書体験では『ライ麦畑でつかまえて』がそう。大学生か社会人1、2年目で読んだ気がしますが、これは中高時代に読むべきでした。あと文庫の字が小さい問題も切実です。

ちなみに『スラムダンク』は年に1回程度行く近所の医者の待合室で読んでいますが、現在10巻。頼むから診察の順番が来ないで欲しいと願いながら読んでいます。

西村賢太は『下手に居丈高』が単著47冊目。そんなに書いてるの? の前に、そんなに書くの速いの? で驚きました。「一私小説家の日乗」見る限り、筆は遅そうですけどねぇ。飲んでばかりで。

そういえば「信濃路」が紹介されていました。曰く「作家の西村賢太も通い詰める、「鶯谷のセンベロといえばココ!」と呼び声高いお店。」。西村賢太って、そんな有名人?

https://livejapan.com/ja/article/a0001157/

絶好調の「黒い昼食会」。この村上春樹叩きは大森望と豊崎由美コンビと思っているがどうか。ところで

B「たださ、10代の文庫のキラーコンテンツがないんだよね。実はラノベってもっと上の世代のものだし。」

A「電撃文庫も30代とか40代。10代が読む文庫がないのか」

まじか!? … と書きつつ、さもありなんとどこかで思っている自分がいます。

入江敦彦は同志社大学の作家編。ですが、同志社くくりはちょっと無理のある感じ。ここは素直に有栖川有栖が好きでいいのに。考察も毎度のごとく素晴らしいのだから。

そういえば余所さんの似非京都はぶった斬る入江が以前、絶賛していたのが「着せ替えの手帖」の主役、永江朗。ふたりともオシャレだから共感部分が大きいのでしょうかね。だとすると私が永江朗が苦手な理由もわかるような気がします。ぶー。

三角窓口で松岡秀治はダラスのエルム街を挙げていますが、全米中にあると思います、エルム街。しかも「エルム街の悪夢」のロケ地はロスアンゼルスだし、Wikipedia によればニューヨーク、ポツダムのエルム街がアイデアの一つと関連するみたいです。

『中世英国人の仕事と生活』面白そう。作者の一人はテリー・ジョーンズ。『モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル』は、アーサー王を扱った映画の中でもっとも時代考証が正しいそうです。いい話だ。

若林踏が5月号の表現に対して謝罪。読み返してみましたがどの部分が「特に」興を削いでいるのか分かりません。ミステリーの書評は難しいですよね、何を書いてもそう言われると思うし、個人の振れ幅も大きいし。ちなみに私はできるだけ「無」の状態で読みたい派。買ってある本の書名が出てきたら、慌てて次の段落まで進みます。

 

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