ウィンター・ムーン

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ウィンター・ムーン (上)(下) / ディーン・R・クーンツ / 田中一江訳 / 文春文庫 / 各520円
装画 : 藤田新策 / デザイン : 坂田政則
Winter moon by Dean R Koontz (1994)

ロサンジェルス市警のジャックは、ガソリンスタンドでの銃撃戦で重体となる。同じ頃ジャックの同僚で殉職したトミーの父は、隠居先の牧場で夜、森が輝き、不思議な音が流れる現象に遭遇。動物による監視にも気づき、その背後にあるものと対決する途中に命を落とす。牧場を含む遺産はジャックに引き継がれ、妻のヘザー、息子のトビーらと共に牧場に引っ越す。ジャックらは引越し先でトミーの父に起きた事件の真相を知る。

いつもなら最後の最後でムチャクチャな理屈をつけてでもそれまでの不合理な現象に片をつけてしまうクーンツが、珍しく超常現象を早めのページで登場させ(140ページ)、本作品がいつもとは異なることを明かします。そのお陰で無理なミスリードを配置しなくて良くなったせいかロサンジェルスのパート共々に緊張感が持続します。モンタナの描写と対比したいがためかロサンジェルスの情景は陰鬱たるものですが、病院でのシーンや、不良の子供らとの対峙など読ませます。またいつも辟易するユーモアとも思えないくだらないやり取りが、片や孤独な老人、片や病床の夫を介護する妻という構図から自然と抑制された点も幸いでした。

ところが下巻に入り、まずロサンジェルスパートが何の意味もなかったことに気付かされて愕然。カルトヒーロー化した殺人鬼の話や、生き残ったガソリンスタンドの店主の妻、半身不随になりかかっていたはずの怪我などすべて後半に関係なし。2つの作品を無理やり繋いだのは明らかです。その後、モンタナの描写は精彩を欠き、登場人物がいつもの会話を始めたあたりからペースダウン。
そして<贈り主>だか<それ>だかの登場。あれだけ偉そうな御託を並べ、大御所のSF作家を並べて出てきたのが、まんま「ヒドゥン」。戦闘シーンへの流れも唐突で、無理矢理ジャックと二人を分けながら、どちらも大したエピソードを作れないままの急展開。そして仕上げとばかりに最後のエピローグで呆然とさせられます。
精神面でのトビーの闘いや水面下に押しこむ比喩はそれなりに面白いので、もう少しそちらの描写を掘り下げ、文量も増やし、通俗な描写を止めれば、印象も変わったと思うのですがクーンツに求めるのが無駄でしたかね。過去には「ハードシェル」のような気の利いた作品もあるだけに残念です。

個人的に怖かったのはアライグマが出てきた瞬間。「これが口をきいたら、この作品は既読だわ。ガクブル、ガクブル…」と思ったらすぐに動物らしく退場してくれたので安心しました。調べると『悠久の銀河帝国』ですね。本書の中ではクラークもベンフォードも言及されますから、参照したかな?

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