真冬に来たスパイ / マイケル・バー・ゾウハー / 広瀬順広訳 / 早川文庫NV / ???円 (石山さんにもらった)
A Spy in Winter by Michael Bar-Zohar
バージェス、マクリーン、フィルビーらの黒幕であったオルロフは、義理の娘リンの要請に応え、亡命先のアメリカからイギリスに渡り、TV番組のインタビューに応じることになる。同じ番組に出演予定の元KGBスパイが殺されるが、オルロフの知らない人物であり、別系統のスパイ組織があることを匂わせる。またオルロフ自身の命も狙われる。共通の人物の犯行と思われ、オルロフはリンと共に個人的な操作を開始する。
面白かったです。今では見る影もなくなった早川文庫NVお得意の冒険小説。この本自身も発行は1986年(原著は1984年)、巻末にはバー・ゾウハーやル・カレの作品が並びます。
アイデアが抜群で、スパイに揺れた時代そのものでなく、それから20年経過後のイギリスにおいて、インタビューで当時を振り返りつつ、現在の事件と人とが絡み合う設定。ダンカン・カイルの傑作「革命の夜に来た男」と同じパターン。読者は自然と20年前の事件を振り返りながら、事件の真相を考えることになります。アリステア・マクリーンもそうすればよかったのにね。
ただかなり最初からKGBのやり方が強調されるため、早々に真相は分かるのですが、それでも驚きの展開もちりばめつつ、最後まで一気に読ませる技はさすが。初めてバー・ゾウハーを読みましたが、期待できそうです。
惜しいのは後半、ヘイスティングズを活かしきれていないところ。折角、魅力的な人物をつくり、タイムリミットまで設定しながら、「われわれには手が届かないんです!」だけで終わらせてしまうのは惜しい。あまりに感傷的でご都合主義ながら、少し違ったラストにできると思うのですが。