本の雑誌 2023年3月号 – 「まぁ、面白かったよな」

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本の雑誌 2023年3月号 (No.477) / 本の雑誌社 / 700円 + 税
表紙デザイン クラフト・エヴィング商會 [吉田博美・吉田篤弘] / 表紙イラスト 沢野ひとし

特集「どんでん返しが気持ちいい!」

どんでん返しなんて最初から言われて楽しめるわけないじゃん! と思っているので気づいていませんでしたが、世の中にはこんなにもどんでん返しが溢れているのですね。ジェフリー・ディーヴァーは名前だけ知ってましたが「魔術師」な展開なのだとは知りませんでした。何か安くないかい、「どんでん返しの魔術師」って ?

千街晶之が気を遣って作品名を挙げないようにしているのに、その前の大矢博子がバンバン書名を挙げているので台無しだぁ、などと最初は思ってたけど、大森望、霜月蒼、若林踏の対談を読む頃にはもうどうでもいいのかなと少しだけ気持ちが変化しました。以前、『リピート』は絶対許せない、と書いたけど、あれも普通はありなんですかね…。霜月の『イニシエーション・ラブ』に対する「途中で俺、なんでこれを読んでいるんだろうと思うんですよね」がおかしい。

編集者の新井久幸は帯のキャッチフレーズに「どんでん返し」を使うなら、文中2回以上はどんでん返しがあるべきという持論を展開。なるほどそんな意見もあるのか。

新刊

柿沼瑛子が挙げた『真珠湾の冬』は、舞台が真珠湾攻撃、香港、捕虜となり東京で終戦、らしいのですが、とんでもじゃないのかなぁとちょっと心配。

石川美南が紹介する『絶縁』は良さげ。アジアの若手作家が同じタイトルで短編を書いたものだそうな。そして山脇麻生のマンガ紹介コーナーとダブルのが『アクティング・クラス』。演技教室に集まった10人が徐々に演技と現実の区別がつかなくなる話でこれも面白そう。ただ絵柄が好みに合うかどうかは気になる所。山脇の「神隠し」の話は、演じる末の別人格として生きることの選択と言いたいのだろうが、ちょっと飛躍を感じた。

大森望は、批評の中で「心の奥にいる10代のSFマニアが「ケッ!」と言う。還暦すぎてるくせにまだそんなものがいるのかよ。」とか。SF読者ってみんなそうじゃないのか。酒井貞道は2号連続で登場の『名探偵のままでいて』。下地の古典を知っているとより楽しめそうだ。
すずきたけしの挙げる『奇妙なものぞっとするもの』で登場する作家や映画が趣味ともろかぶりで嬉しいけれど、逆に安いんじゃないかとヘンな恐れ。『ザ・ヒストリー・オブ・ルアーフィッシング』は、筆者の熱が猛烈に伝わってくる。カバーもかっこいい。
宇田川拓也は『頬に哀しみを刻め』。息子らを惨殺された父親らが復讐する話。ハーパーBOOKSの本は面白さより凄惨さが勝るイメージなんだよね…。
山岸真の紹介に『深海のYrr [新版]』。あぁ、フランク・シェッツィングはこれを含む複数持ってるけど未読だ。黒い表紙。Huluのドラマに木村拓哉が出演するらしい

連載

岡崎武志は連載を切られ古本屋業としてまずはメルカリを始めます。なんかものすごく道が遠そうで同情する。三角窓口の読者千屋さんによると『古本屋台』には岡崎をモデルにした常連がいるらしい。そんな描写あったかなぁ…? あるいは見る人が見たらわかるキャラがいるのか??
『ロビンソン・クルーソー』って冒険小説だったんだと思わせるのが♪akira。あれ、28年も無人島にいたのか!?かなり読んでみたいぞ。逆に映画「逆転のトライアングル」は展開だけ知りたい。

椎名誠は「1月はきらいだ」と、19歳のときの自動車事故の話。入院時の意識が混濁した様子がとてもいい。ドキドキしながら読んでいたら、突然「2023年の1月に目黒考二が急逝した。」と最後の会話。追悼は来月号だろうと思っていたので不意打ちでした。「まぁ、面白かったよな」に泣きます。私も古い友人が大勢いますが、そんな会話ができるだろうか…。
その直後が大槻ケンヂの宇宙人の能天気さでそこがいい(目黒考二も喜んでいるはず)。「78年出版の本書は、当時の人々の『もしかしたら本当にいるかもしれないな宇宙人』との、国民総ややビリーバーであった時代の熱気が克明に記されてい」る『にっぽん宇宙人白書』の紹介。あぁ、幼少の頃のあやしー本や『ノストラダムスの大予言』ブームはここらと共通だな。「今いる日常から、せめて幻想の分だけでも抜け出したい」。優しい。
内澤旬子のDIYは単管とクランプ。あれらの名前を初めて知りました。
川口則弘の「恥かしそうに仕事した人」は、共同通信社の田口哲郎、筆名は高井有一で芥川賞作家。控えめなエピソードが満載。
服部文祥は『あなたの体は9割が最近』。抗生物質の影響で死んだ体内細菌を戻すための糞便注入とか、エリートウンコとか。直感的に正しいやつだと思います。アニメ「はたらく細胞」を観るとイメージがわきやすい。
日下三蔵は「蔵の中」のエロ漫画雑誌の話。そうした雑誌で探しものがあれば駿河屋 > まんだらけ通販 > ヤフオクと行くといいらしい。書いそびれた山本直樹の『レッド』を調べたら、きっちりした値段がついてます…。
V林田は「人車鉄道」。淡々とした紹介の背後に膨大な知識と調査を感じられ毎回読ませる。今回は「日本初の人車」で引っ張る、引っ張る。
鏡明は地図と陰謀論。『地図と拳』の、地図があるから、国家になるというのはいいね。「シオン賢者の議定書」は初めて知った。
栗下直也は辻まことの10冊。4冊しか著作がなく、関連本含めてほとんど品切・絶版だが、それでも薦める意欲は買う。残念ながらさほど興味なし。

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