本の雑誌 2023年4月号 – 短歌の魅力が本気で伝わりました。

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本の雑誌 2023年4月号 (No.478) / 本の雑誌社 / 750円 + 税
表紙デザイン クラフト・エヴィング商會 [吉田博美・吉田篤弘] / 表紙イラスト 沢野ひとし

冒頭は超贅沢な本屋大賞ノミネート作品データ集21ページ。10冊のノミネート全作品をカラー見開きで、左には宣伝、右側には著者プロフィール、写真、本の大きさ、価格、発行部数から、フォントや紙、担当編集者、営業の名前まで競馬情報風にぎっしり。そうそうこういうのが欲しかったのよ。本屋大賞に限らず、毎号こんな感じで著者や本を紹介して欲しいわ。
ノミネート作では『ラブカは静かに弓を持つ』が良さげ。関連するのか堀井憲一郎が一人本屋大賞。10冊買ってラブカを開くところで以下次号。ちぇっ。

特集「短歌の春!」

短歌がブーム、だそうです。確かに文学フリマでも驚くほど多くのブースが出てたなぁ、吉野朔実とか嬉しかったろうになぁ、などと、さほど期待もせずぼんやり読み始めたら、立体的に短歌と重要人物を立ち上げる充実の内容でした。素晴らしい。 穂村弘、東直子に木下龍也、紀伊国屋新宿本店の梅崎実奈、書肆侃侃房とナナロク社、装幀家名久井直子等々。

対談では、いつもうつむき加減で自信なげな思考の穂村弘が、ものすごく光っていて驚きました。これが「思想的なものと結びついた文語表現」と闘ってきた口語短歌の強さなのか。しかも、木下龍也がどんなに褒めても謙虚。人間が違う。途中の短歌の紹介も一つの言葉をこう捉えるのか…という驚きと発見ばかり。さらりと「天使自体が詩的だから天使の短歌ってむずかしい。」とか凄いわ。
なのに、やっぱり連載の「続・棒パン日常」では父の遺産の関係で証券会社に行き、「ふるふると子犬のように首を振るばかりだ」なのだから可笑しい。

新刊ガイドの石川美南は歌人だったのね。「歌集の装幀はかっこいい!」と力説した直後、梅崎実奈が「装丁がかっこよくない」と書いてて笑いました。
書店員の彼女の孤軍奮闘ぶりと、ブームに喜びつつ冷静に前を向く姿勢がかっこいい。紀伊國屋新宿本店勤務。
あと書肆侃侃房って福岡のマイナーな出版社と思ってたけど凄いんだな。そう言えば文学フリマに出店してて人気でした。出版社対談での、文字の表記を大切にしているのに引用で、「君」と「きみ」を間違えてると「おい!」となる、そうです。
澤田康彦のおすすめ短歌本の中に見覚えのある『桜前線開花宣言』。確かこれ少し前に鏡明が紹介していた本ですね。そして『短歌パラダイス』は、吉野朔実が紹介していたはず。そう言えば澤田康彦も彼女の漫画に出ていたよね。

新刊

老婆の殺し屋の物語『破果』と、判事の殺された娘エミリーの物語が並走する『忘れられた少女』は、どちらも興味の対象外だが、柿沼瑛子の紹介が上手く妙に気になります。これが初評家の力。
石川美南と、図書カード3万円分お買い上げの阿津川辰海が挙げるのが『サラゴサ手稿』上中下。昨年のおすすめで何度も紹介されていた本が完結したようです、ヘンな小説っぽくて気になるなぁ。
大森望のSFコーナーは不調。
酒井貞道が年度ベスト級のミステリという『木挽町のあだ討ち』は面白そう。あだ討ちの裏にあるものと、芝居が絡むらしい。うーんこれが食わず嫌いの時代小説じゃなくて、現代の小劇場ならもっといいのに。
松井ゆかりの4作はどれも最後に残るものがありそうな本ですが、厳しい読書になりそうで敬遠。
すずきたけしの紹介で知ったのが『マスターズ・オブ・ライト』の増補改訂完全版。1989年の初版は映研の米丸先輩の家でずっと読んでました、面白かった。訳者は当時、金子修介『1999年の夏休み』とかで「蛍光灯で撮影するアメリカ帰りの新進気鋭」という認識だった髙間賢治。今や超ベテランで、むしろインタビュー収録される側。時代を感じます。もしかして訳者あとがきとかで入っているのか? そして『社長たちの映画史』。何となく知っていたけど「五社協定」って言葉があって、そこに三船プロ、石原プロが絡むのを知る。なるほど。そして『調べる技術』。ネット検索方法も、それ以外の技術も面白そう。
新刊めったくたがいどは北上次郎の穴を埋めないまま6本ですか…。

連載

大槻ケンヂは先月号の予告どおりUFO・宇宙人以外の、スマホの中の寺山修司。時間を溶かしている様子がツライ。
和氣正幸から尾山台に「WARP HOLE BOOKS」という新しい本屋があることを知る。東京都市大学の講師の方が店主らしい。そして小山力也の紹介する「古書 十五時の犬」は、昔の通勤路の途中。高円寺文庫センターの先。オムレツを上手に作る定食屋さんがあったあたりか。どっちも機会があれば行ってみたい。
山脇麻生のマンガコーナーでは、「老い」にスポットを当てたシニア向けコミックの新レーベル「ビッグコミックス フロントライン」の紹介。第1弾は『父を焼く』、第2弾は『ぼっち死の館』。うわー…。underseaは雑誌コーナーで熟年雑誌「ハルメク」の紹介。うわー…。「本の雑誌」本体だけでなく社会全体も高齢化してて、それがいよいよサブカルにまで到達した感。
「本を売る技術」の漫画版が連載開始。既刊は本屋の買い取りなんですね…。本屋の商品は岩波書店みたいな買い切りを除き全部、返品可能な委託かと思ってました。
岡崎武志はメルカリで本を出品する話。料金の受け渡しを代行し、配送を匿名化したメルカリはほんとエライ。ただメインのユーザー層は小説読みじゃない気がするんだけどな。
浅生ハルミンは弥治郎こけし村訪問記。新山夫妻の温かな人柄が伝わります。自分でも意外だけど、こけし愛を感じる。
川口則弘は朝日新聞の杉山喬。いかにも筆者が好きそうな目立たない所で信念を貫く人。「エラソーな書評をしない」は、鏡明が目黒考二について語る部分でも出てきました。面白いものを面白いと書く「本の雑誌」のスタイルは、70年代後半から現代にまで続くエンタメ業界、サブカル業界の嚆矢だったんだよな。
服部文祥は『人類初の南極越冬船 ベルジカ号の記録』。凄く面白そうな紹介なのにあんまりドキドキしないのは極地探検にさほど興味がないから。
V林田は『象は汽車に乗れるか』は月刊誌「旅」の創刊から1964年の記事の総集編。とても楽しく紹介して最後にタイトルの疑問に戻って、答えは本書を読めと。うまいなぁ。
平松洋子は新宿西口「かめや」。以前、同じエピソードが紹介されたときに行きました。天玉そば食べたけどフツーの美味しいそば。けども彼女の筆にかかると極上の料理に感じられます。
円城塔の最後の段落がうまく取れなかったのだけど、グレゴワール・シャマユーの一連の著作を熱狂的に読んでいるということでいいのかな。外側の紹介がメインだったので『統治不能社会』に何が書いてあるのか気になる。
べつやくれいは相変わらずヘンな生き物が好きでおかしい。今回はカンブリア紀のヴェトゥリコラ。
風野春樹はHSPの困惑。欧米の、敏感さやナイーヴに対するネガティブな捉え方というのが面白い。そこらはまとめて弱さと取るんだろうな。

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