本の雑誌 2023年2月号 – 鏡明の『伊藤典夫評論集成』は楽しみだが、エンディングノートみたいでちょっとな

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本の雑誌 2023年2月号 (No.476) / 本の雑誌社 / 700円 + 税
表紙デザイン クラフト・エヴィング商會 [吉田博美・吉田篤弘] / 表紙イラスト 沢野ひとし

今月の本棚の巌谷純介の棚は美術品のよう。増えた分は減らしているのでしょうね…。

特集「本を買う!」

「本を買え、天に届くまで積み上げろ、と中野善夫は言った」に笑っていたら、中身はもっと過激にコンマリに真っ向喧嘩を売り、ただ清水幾太郎の「書き込みのため」には声が小さくなるものの、それ以外については大賛同。小さなギャグが無数に散りばめ、とても楽しい開幕宣言でした。あと「本」というときに、電子書籍がまったく無視されているのもいい。これは特集を通じて共通です。
ところでこんまりはここまで直接的に否定しているとは思っていませんでした。「心がスパークするなら、たまるのは仕方ない」位の逃げ道は設定しているだろう、と。片付けを優先するには、このような一方的な断言も必要なんですかね。

編集者対談。部屋はどうなっているんだと思ったら会社の倉庫とか、実家住まいとか。次の大学の先生とか含めて色々ずるいよな。あ、でも売ってますね。偉いな。

で、山本貴光は東工大で哲学を持っているのか。理系の人かと思ってたら両刀遣いでした。所属はリベラルアーツ研究教育院。ひと月に250冊70万円。古本は価格に含まれず。しかもリストからは電子書籍は除く。ええ。全部紙の本かよ…。中には洋書、それも英語以外が含まれ、共著も買っている。所々、興味の向きからまとめ買いしている風があるのがとてもいい。リストを作ると困る。なぜなら買ってない本に気づくから、というのもいい。

水鏡子は読みたい本から派生して関連書籍、ジャンルと広がりながら買い続ける様を「興味の俯瞰作業」と表現。なろう系のタイトルが無茶苦茶面白いんだけど「正直商業出版に値するとは思えない本もそれなりにある」らしく逆に興味が出ます。ほとんどクーポン利用の0円か数百円なのに、ケチな訳ではなく『プロジェクト・ヘイル・メアリ』や『プロトコル・オブ・ヒューマニティ』、劉慈欣、ラファティ、SFマガジンは新刊を購入しているあたりさすがです。

読者アンケートの唐木幸子さん。産後、大好きな椎名誠本の価格を気にする自分にドキッとし、稼ぎ続けることを誓う。すべての人に読んでほしい文章。

新刊

すずきたけしの推す『聞き書き 世界のサッカー民』。頭では、普通のファンという言葉では括れない、人生を賭けた人々、とわかっていても肌ではわかっていないので、周囲の熱烈サッカーファンにこの本を押し付けて、感想を聞いてみたい。

大森望が紹介するリアルなディテール『マシンフッド宣言』。

北上次郎の文章の中に「大事な人はみな早死にし」とあって読むのが止まりました。彼の影響で読んでたのがディーン・R・クーンツとクレイグ・トーマス。以来、冒険小説周辺は私のテリトリになりました。最近の紹介は日本の作品が主でしたが、突然マーク・グリーニーを絶賛する感度と冒険小説への愛は素晴らしかった。最後の今月書いた人は「特に書くことなし。」…。合掌。

宇田川拓也の紹介は『名探偵のままでいて』。アームチェア探偵ものっぽく「きれいな着地」らしく読んでみたい。

urbanseaの雑誌紹介は『HiVi』。特集は「凄い音の映画200」で、「ゼロ・グラビティ」を複数の方が挙げているそうな。未見。

連載

椎名誠はこれまで良かったのに今回はちょっと雑。忙しいのか。と思ったらコロナだったらしい。きっとその影響だろうな。

大槻ケンヂはUFO本。「水ミルク」事件、「リンゴ送れ、C」とその界隈では有名でも知らない話ばかり。こういうのは当人が真面目にやっていた分、外野も楽しいですね。V林田の「ほくほく博士」も同じ。このタイトルと表紙で中身は本気って良すぎます。

内澤旬子はヤギ舎の建築。大工作業に一番遠い人が小豆島で奮闘していて凄いなと単純に感心します。きっと今じゃフツーに軽トラ乗り回してるんでしょう。生活排水を海に垂れ流す罪悪感はわかっていてもキツイなぁ…。

日下三蔵は相変わらず面白い。ゴミ屋敷ならぬ本屋敷と化した自宅を整理整頓するだけのエッセイだが読ませる。単行本化されたらカラー写真かな。期待だ。

服部文祥は『科学的エビデンスにもとづく100歳まで健康に生きるための25のメソッド』から絶食のすすめ。登山者でない私でも直感的に正しいと思います。かと言ってやるかというとなぁ…。

川口則弘の文芸記者は竹内良夫。本業を全うせず作家を夢見る竹内に対する川口の紹介は若干冷たく感じます。そのまま終わるかと思いきや最後に西村賢太登場。おぉ。

浅生ハルミンは高尾こけしまつり。マジで連載するのかと呆れつつ読んだら意外やこけし愛を前面に出しつつも読ませます。

鏡明は『伊藤典夫評論集成』という本(?)を書いているのか。「2段組で1400ページを超える」らしい。そのゲラを読みながら「SFとは何か?」という「解答のない問い」を考える。結論として演繹法的な定義は不可能だから、演繹的に、SF作品リストを挙げればいいと語る。なるほどなるほど。

青山南は『グッドナイト・ムーン』の話。ずっと面白い。『ぼくにげちゃうよ』の最後にブラウンが電報で追加した「さあ、ニンジンをたべなさい」。うまいよなぁ。

円城塔は「ふつうの人ですね」と言われることがわりとある、らしい。偏屈な人に見えるもんな。

風野春樹は精神分析を非難。えぇ!? 精神科医は精神分析をバカにしてるの? もしかして精神分析ってとんでもで「確定」だったの? ちょっと驚きました。『あなたがたに話す私はモンスター』。精神分析を叩き切る書だそうです。

沢野ひとしによると荻原博子は若い頃、ルポライターを目指していて浅間開拓のことを書いていたらしい。経済に詳しいおばさんという認識だったので驚きました。

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