アウレリャーノがやってくる – 破滅派に関わるすべてへの愛の物語

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アウレリャーノがやってくる / 高橋文樹 / 破滅派 / 1800円+税
装画: 今日マチ子

アウレリャーノがやってくる

美青年アマネヒトは姉の海を頼りに上京し、他人のために詩を語る「代理詩人」を始める。同じ肩書きの人間がいる縁で、同人誌発行団体「破滅派」に加わったアマネヒトは、代表の紙上大兄皇子、その恋人の潮、ほろほろ落花生ら同人と交わり、自分の言葉で詩を作るようになる。

雑誌掲載の初読ではアマネヒトの成長や、海の包容力に惹かれました。また潮の両親の浮世離れした優しさや、前半と後半のほろほろ落花生の変化とか、一つ一つが可笑しくて楽しく読みました。

今回、書籍で再読すると、紙上大兄皇子の高揚や苛立ち、アマネヒトに対する教示の方に興味が行きました。有能なメンバーの海外転勤に八つ当たりしたり、アマネヒトの遁走癖や、すぐに音を上げ根拠のない意見を言う姿勢にその特徴が消えたらつまらんと羨望を吐露したり、詩作のありったけを伝え、ほろほろ落花生や感人や潮で成し遂げられなかった同人の育成を試みたり。まるで高橋文樹のようです。

出版社「破滅派」の最初の本が本作と聞いたときには、少し疑問を覚えました。新潮新人賞を受賞し、浅田彰に○を付けられ雑誌掲載したにも関わらず、陽の目を見なかった幻の作品となれば思い入れが深いことも理解できます。ただ、10年以上も前の作品ですし、一方では『いい曲だけど名前は知らない』のような最新のバラエティ豊かな作品集や、傑作「pとqには気をつけて」もあります。これらを単行本化した方が、戦略的には良いと考えたのです。

しかし、ツンと澄んだ新刊の臭いをかぎながらハードカバーで読むと不思議と高揚しますし、すべてを「破滅派」に捧げる紙上大兄皇子に作者を重ねると、最初の本は「アウレリャーノがやってくる」以外にありえず、カバーも同人誌「破滅派」に連載されていた今日マチ子の破滅ちゃんでなければならなかったのだなと確信しました。ありふれた言い方ですが、この本を書籍化して、ようやく前に進めるのでしょう。

本書では「破滅派に関わるすべてへの愛」が物語られていました。

フェイタル・コネクション

タカハシと山谷感人の、北千住での同居生活を描いた作品。存在だけで意識せずにプレッシャーを与え、他人を追い詰め、怒らせるタカハシと、「自分がダメ人間ってわかっていながらダメなのが一番キツい」カント。そこにタカハシの彼女山田や、以前の同居人、丸毛、悠太が絡む。

タイトルは「401 Fatal Connection」からですが、致命的なコミュニケーションエラーが随所に見られ、あり得ないエピソードの連続に大笑いしていると、最後に少しほろっとさせてくれます。カタカナで埋まった原稿用紙を見ていると奇妙な感謝にあふれているのと、なんだかんだカントは作家なのだなと。
あと、怒るでもなく、泣くでもなく、ただ感心するタカハシも凄ければ(ただ、山田が覗かれていたと知っての「ウソ」は可愛い)、その山田の現実離れした小動物っぽさもいいですね。タカハシのもったいない(ように見える)人生に、つい説教してしまう周囲もリアルです。

彼自身による高橋文樹

紙上大兄皇子やタカハシほど冷めていない生の高橋文樹が描かれ強い言葉と思いに圧倒されます。曰く「一番苦しいときになにもしてくれなかった人達を私は信じない。」、曰く「冗談で「破滅派」を名乗っているのではない。」。そしてここまで苦しめられても(苦しめられたからこそ?)、まだ山谷感人は親友なのだな、と。

「閉ざされたコミュニティ」の話は面白かったです。私もその閉ざされたコミュニティの一員なので、外部からのアプローチの方法さえ分からなかったものが、今では自分で作り出せるようになり、不思議な気持ちです。ただ何かのコネがあったわけでなく、やり続けていたらこうなっただけで、そこは「あなた次第」かなとも思います。あと円城塔さえ営業努力をしていると聞き、本当に驚きましたね。


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