本の雑誌 2021年12月号 – 冒険小説復活か

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本の雑誌 2021年12月号 (No.462) / 本の雑誌社 / 667円 + 税
表紙デザイン クラフト・エヴィング商會 [吉田博美・吉田篤弘] / 表紙イラスト 沢野ひとし

特集は「ひとは本を読んで号泣するのか?」

おそらく泣き虫浜本編集発行人が企画し、「最泣」重松清インタビューをメインに据えたのでしょうが、前後は「泣ける本 = いい本ではないのだ!」とか「泣ける、泣ける言われて泣けるかい!」とか言う記事に挟まれる不思議な構成です。
ところで最近は特に「泣ける」を全面に謳っている本が多いそうです。そう言われても、ふ~ん、絶賛!の変形じゃんとしか思わないのだけどな。
泣ける本番付も「小説で泣いたことあったっけかなぁ…」と思いながら眺めていました。『ごんぎつね』も『アルジャーノンに花束を』も泣かないからな、面白いけど。重松清『青い鳥』、阿部暁子『パラスター』は読んでみたい。
で、その重松清のプロフェッショナルな発言に感心しながらページをめくると、泣かない派の「冷血動物じゃないぞ」があって笑いました。

新刊で面白そうなのが柚木麻子『らんたん』。幕末から明治に興味を持てず、だからか司馬遼太郎も未読です。しかし、これが女性視点となると興味を持ち始めるんだから不思議です。『明治を生きた男装の女医 高橋瑞物語』とか。
北上次郎の宇佐美まこと『子供は怖い夢を見る』の紹介は相変わらずうまい。楽器収納庫の話だけで思わず読んでみたくなります。

宇田川拓也は逢坂冬馬『同士少女よ、敵を撃て』。発売前から評判がよく読んでみたいので、タイトルだけ見て本文はスキップしました。どうもソ連時代が舞台らしく、おぉ、遂に冒険小説復活するのか!? ジャンルとしては消滅していても、その構成要素が残っているのは、先月号のハードボイルドと同じ。しかし真正面から取り上げてもらえればそれはそれで嬉しい。映画「HELLO WORLD」とか。
その冒険小説作家吉野仁の紹介ではマーク・グリーニーが10作目『暗殺者の献身』でも力は衰えていないらしい。トム・クランシーとの共作にどうやって手を出せばよいのか、すなわちあの未読クランシーを追うか、無視するかが決まらず見送っていましたが、そろそろグレイマンから手を出すかな。

大槻ケンヂは「SF本」。サイエンスフィクションではなく、ストリートファイト。「格闘技通信」の登場人物が語る昔やんちゃだった頃の話を考えればよいかと。オカルトもそうですし、彼のロックのスタイルも含め、お約束を踏まえた上でのプロレスが本当に好きなんだろうと思います。だから山田花子への身も蓋もない「青二才」の評価も納得です。

服部文祥の資本主義は無限の経済的拡張を仮定している論は面白い。地球は有限なので限界が来ており変革が求められている、と。ここらへんは、佐藤究の言う資本主義のダークサイドと併せて、もしかすると生きているうちに変化が見られるのかもしれない。

宮田珠己は真面目にロト7を検証。バカバカしいがこれくらい真面目にやってくれると読み応えがあります。いつものふわふわした思考よりよほど良い。

V林田は鈴木勇一郎『おみやげと鉄道』の紹介。面白いねぇ、これ。まずお菓子のおみやげは日本固有だという導入から、安倍川餅、吉備団子、赤福、萩の月、白い恋人の実例を紹介し、その定義と発展に交通が果たした役割を明かします。広島のもみじ饅頭はどうなのか、やはり洋七先生が偉いのか。

山本貴光は「マルジナリアは永遠に」で第一部完。書き込みを多面的に取り上げながら教条主義にしない所、結果的にはそうなっても、線を引く行為には単純な感動や驚きが先で、本とコミュニケーションしながら読書する主張がとても良い。

岡崎武志によると大正期の東京では「若き画家たちの多くが、同時に詩作もしていた」「彼らの新しいエネルギーを受け止め発散させるには、どちらか片方では足りず絵と詩の両方が必要だったのかもしれない」とか。

青山南はジェスミン・ウォード『骨を引き上げろ』に続いて『歌え、葬られぬ者たちよ、歌え』。前者は藤ふくろうも取り上げています。母性が強烈に取り上げられるらしい。

風野春樹はウインストン・ブラック『中世ヨーロッパ ファクトとフィクション』。中世に勝手なイメージを持っているのは洋の東西を問わないが、日本のファンタジー一色に比べると、西洋ではカトリックの暗黒支配を煽るプロテスタント、という何ともなぁという構図が出てくるあたり面白いです。

堀井憲一郎はフィッツジェラルドの「オールド・スポート」の訳語について。毎度のふざけた文章の下に物凄い調査と考察があります。さらりと「40回以上」とか、小川高義訳を「かなり苦労されたのではないか」とか。素晴らしいよ、オールド・スポート。

江南亜美子は村田沙耶香の10冊。『コンビニ人間』みたいな作品ばかりを想像していたので、初期作品や最近の「ぶっ壊れ方」に驚きました。『地球星人』『変半身』は読みたい。

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