本の雑誌 2024年3月号 – 斜線堂有紀の狂ったメフィスト賞愛が大変よかった

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本の雑誌 2024年3月号 (No.489) 春宵かくれんぼ号 / 本の雑誌社 / 800円 + 税
表紙デザイン クラフト・エヴィング商會 [吉田博美・吉田篤弘] / 表紙イラスト 沢野ひとし

特集: メフィスト賞を探検せよ!

「メフィスト賞」を意識したことがなかったのが悔やまれる特集。こんなに楽しいことがすぐ横で起きていたんですね。最近の特殊設定ミステリのバカバカしさに呆れつつも作家の想像力に驚いていましたが、この全64作レビューに見るバラエティはそれらの10倍凄い。そりゃ斜線堂有紀みたいな狂った熱情を持つファンも生まれるでしょうって。あと出身者も凄い。

レビュー作の中では近本洋一『愛の徴』が普通に良さそう。石黒耀『死都日本』の舞台が宮崎ってのは全く知らなかった。主人公の名前が黒木で、だよな。黒澤いづみ『人間に向いてない』の主人公の名前は見晴。斜線堂有紀の推薦は『フリッカー式』。あと『コズミック』『六枚のとんかつ』『○○○○○○○○殺人事件』『ウルチモ・トルッコ』あたりの反則ギリギリっぽいのは、機会があれば是非、本当に、トライしたい。

新刊

柿沼瑛子の紹介ではよくわからなかったけど、亜紀書房&村井理子なので調べるとやはり『ラストコールの殺人鬼』はノンフィクション。
大森望では間宮改衣『ここはすべての夜明けまえ』。星4 1/2 と、良さげな雰囲気からほとんど解説を読んでません。楽しみ。
酒井貞道の強いメッセージが印象に残った『四重奏』。音楽とは何かを突き詰め、「最後に何かを確かに掴む」。凄いこと。
松井ゆかりの紹介する『この銀盤を君と跳ぶ』がいいのは、ライバルとなる二人のフィギュアスケーター側の視点がないらしいこと。戦いを支援する側だけを描くアイデアがいい。実際の競技もそうなんだろうな。
藤田香織は『続きと始まり』に絡めて「私が今まで「自分の希望」だけで働いてきた」とか。その強さが羨ましい。

連載

黒い昼食会。『薬屋のひとりごと』はラノベが原作で、漫画化が2本あるそうな。そんなん知らんがな。
日下三蔵は「カラーボックスが多すぎる」。楽しそうの一語。
服部文祥は『リラの花咲くけものみち』に泣いた後の冷静な分析が、彼らしい。『水車小屋のネネ』もまとめて、作者の作為と言うのは、ちょっと意地悪すぎる気もするが。メインで取り上げるのは『万物の黎明』。農業革命で近代化したというのは西洋文明が自分の都合で作り出した幻想、という主張は東洋人にとっては聞こえがいい。
鏡明の『パーフェクト・デイズ』評は温かい。ちょっと観てもいいかなと思いました。
石川春菜は文学フリマの話。見本誌コーナーに2時間いてからブースへ向かう、その姿勢が素晴らしい。いい本と出会いたい気持ちがこもった行動。私は妙な義務感から端から端までブースを見ているのだけど、実際なかなか手に取るのは勇気がいるんですよね…。今度からその作戦も取り入れよう。次回以降は有料だし。
円城塔は「漢字の繁殖力」。漢字は増える、らしい。彼が言うと妙な説得力がありますね。夜、作ってそうだ。ただ確かに手書きの時代はそうだろうけど、コードが整理された今は厳しいだろうな…。いや、もしかして中国では増えているのか? 文字コードを整理した芝野さんと会話したとき、出典のない漢字の話になり、「でも印刷用の活字はあるんでしょ?」の問いに、紙製の活字もあるとか言われてましたね。
『中世ヨーロッパ「勇者」の生活』は、よくあるネタかな、でも風野春樹が紹介するんだから違うかなと期待したけど、イマイチっぽい。
堀井憲一郎は源氏物語の現代語訳を読み比べ。田辺聖子、角田光代、谷崎潤一郎、与謝野晶子。長めの引用で特徴をとらえ、最後はしっかりまとめます。角田光代が良さそう。女性作家の方が描写に手加減がないってのが可笑しい。

4月号の特集は祝!文庫化『百年の孤独』でマジックリアリズム。勢いづいているな、本の雑誌。

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