本の雑誌 2023年8月号 – 小川哲の大森望帯鑑定って着想が面白い。実例紹介あり

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本の雑誌 2023年8月号 (No.482) 梅仕事待望号 / 本の雑誌社 / 800円 + 税
表紙デザイン クラフト・エヴィング商會 [吉田博美・吉田篤弘] / 表紙イラスト 沢野ひとし

冒頭、書物の帝国の本棚の写真に映る、少し前のコンピュータ系の本、例えば JavaBeans とかに懐かしさを感じました。青背のハヤカワ文庫も含め、AI 研究者のお父さんの本でしょうかね。

特集「2023年度上半期ベスト1」

1位は「黒い昼食会」でも取り上げられている毎日新聞出版の『水車小屋のネネ』、2位は「版元パラダイス」でも登場、素粒社の『ちょっと踊ったりすぐにかけだす』。どちらも真っ当に良さげですが、3位『ヤラセと情熱』の、川口浩探検隊を巡るノンフィクションに漂う圧倒的な怪しさと愛には敵いそうにない。当時からバカにしていて1度も見たことがないので実際には読まないのだけど、体感はしたかった。

霜月蒼のミステリーでは1位が『頬に哀しみを刻め』。新刊紹介のときも思ったけど、厳しい読書体験になりそう。それよりは『禁じられた館』みたいな楽しげなのがいい。

牧眞司のSFと、藤ふくろうの海外文学で重複するのが『寝煙草の危険』。石川美南の新刊でも紹介されているので話題っぽいが鬱屈そう。『文明交錯』は下地の歴史が分からなくてどれくらい楽しめるのか。それは『四書』も同じ。

青木逸美の時代小説と編集部のベストで重複するのが『木挽町のあだ討ち』と『本売る日々』。どちらも本誌での紹介時点から面白そうでした。と、書いているうちに前者は直木賞を獲得しました。

海外文学では『彼女はマリウポリからやってきた』がそんな話だったのか!と驚きました、が、これも厳しそうで読むかというと、うーん。

冬木糸一のノンフィクションでは『ヒエログリフを解け』。キャラ立ちした二人による、ロゼッタストーン解読レースって紹介だけで面白い。

出版業界座談会によると純文学がいいらしい。それは読者やマスコミに小説の面白さを認知させた「本屋大賞」が20年間で実らせた結果だよなと思います。

新刊

柿沼瑛子は『アガサ・クリスティー失踪事件』に絡めて、背景の実際のあらましを紹介。えー、夫に愛人ができて離婚を切り出されたから疾走したの!? そんなこと訳者紹介や解説に書いてあったかなぁ…。忖度?

石川美南の海外文学では『過去を売る男』が面白そう。みんながルーツを欲しがるって動機がいい。そして『飢えた塩』。「神保町ブックフリマ」のサイトを作る際、未知谷を紹介するときに、同じエピソードを知りました。

酒井貞道の国内ミステリはいつものように仕掛けが凄そうな話ばかり。今、ミステリに参入しようとする作家はハードルが高いよなぁ。で、目立つのが『急行霧島 それぞれの昭和』の「既存の鉄道ミステリに敬意を払ったシンプルなトリックが複数」って、なんだそれは。逆に気になる。

松井ゆかりの作品はどれもいい感じ。『墨のゆらめき』の二人の近づき方、『こんとんの居場所』の読み心地、『アイリス』の人生の絶頂後に待っている葛藤や焦燥。

すずきたけしは『魚と人の知恵比べ』でフライフィッシング。あのピンと背筋を伸ばして、シャーッとやるのもルール(?)だそうです。頭の中は「リバー・ランズ・スルー・イット」。

連載

図書カード3万円お買い物は小川哲。賢くて小難しそうな印象で、「僕は言葉の定義ゲームに一切興味はない」とか、ざっと暗算してぴったり三万円という「らしい」エピソードもあるけど、「大森望帯一級鑑定資士」とか「坂野公一チャレンジ」とか、何よりブロッコリー作戦とか、意外と楽しい人なんだなと思いました。きっちり鑑定のコツも明かす態度も素晴らしい。

北村薫は「大乱歩問題」。大槻ケンヂも話題にしていた読み方問題。最初はこんな事も知らないのかって導入なのに、諸々紹介して、最後は「黄金虫」で落とす。上手いよなぁ。

♪akiraが紹介するのは『プリンス・チャーミングと呼ばれた王子たち』。ディズニープリンセスの相手方たちの話。読んだら面白いかも。
リトルプレス作家岸波龍が開いた本屋「機械書房」。レトロなビルの鉄の扉の向こうの3階って入りづらそう…。
「本を売る技術」はスリップ。具体的なヒントがこれでもかと満載で圧倒されます。ただし今や入れない出版社もあるところがつらく、実際、最近の本屋は抜かないね。
服部文祥は『生命の謎』の紹介。散々進化論で生物はできないと否定しておいて、では何からできたのかと問われてデザイン論はないだろ、と私も思います。そこはまだ不明、じゃ駄目なの? ビッグバンの起こりも今は神様がスイッチを押したことになっているの?
V林田は美食x鉄道x百合として『台湾漫遊鉄道のふたり』。日本人と台湾人、自由人でありたいと思いながら征服している側と、植民地側。上手いなぁ。
「古本屋台」。「あんたいつもおいしそうに飲むね」ってセリフがいいし、その前からの流れもいい。

「呼び名はどうも「生成AI」ということで落ち着きそうになってきた。」という導入から実にかっこいいのが円城塔。途中も、文章生成系は『自然言語処理の基礎』、画像系は『拡散モデル』と紹介して、最後に「あるとき突然、魔法の杖が発見されたわけではなくて、あいも変わらず地道な学習は有効にして不可欠である。」。こういう人にこそ論じてもらいたい。
風野春樹は『ハームリダクション実践ガイド 薬物とアルコールのある暮らし』。一度の失敗を回復できない致命的なミスとみなすか否かで、かなり捉え方は変わりそうな本です。

渡辺祐真は森見登美彦の10冊。ずっと京都が分からないとつまんないんじゃないかと思ってて、あと 湯浅政明の映像の断片からわかったような気持ちになっていて、気にはなるものの読んでませんでした。わぁ、こんなにファンタジーでエンタメしてたのか。『太陽の塔』なんて佐川恭一じゃん。読みます。

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