本の雑誌 2023年5月号 – 追悼号でその人を知るのはなんとも…

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本の雑誌 2023年4月号 (No.478) / 本の雑誌社 / 1200円 + 税
表紙デザイン クラフト・エヴィング商會 [吉田博美・吉田篤弘] / 表紙イラスト 沢野ひとし / 字 椎名誠

特集「さらば友よ!」目黒考二・北上次郎・藤代三郎追悼号

友人、作家、書評家、競馬仲間からの追悼の言葉や思い出のエッセイ、各社からの広告まで、すべてに愛が満ちています。それに応えるかのような「笹塚日記」最終回は、一度読んだはずですが、なんてエモーショナルな、遺言のような文章なのだろう。偶然とは言え鏡明『アメリカの夢の機械』まで出てきます。再録は素晴らしい判断でした。

私は「本の雑誌」とたまの文庫解説でしか目黒・北上を知らず、藤代はまったくの無知。「笹塚日記」を読んでいたときは、会社に泊まっている風な所に少しだけ違和感は感じましたが、まぁそんなスタイルの人なのかなくらいでフツーの社会人と思っていました。それが今回の特集で想像の3倍くらいの変人だったんだなと。競馬の賭け方は読者が引くくらい、人の好き嫌いが激しく、コミュニケーションは限られた人だけで作家との交流も望まない。一方で読むスピードは無茶苦茶速く、締切は厳守等々。「笹塚日記」には描かれていないことも多かったのですね。

北上次郎の書評で思い出すのはクレイグ・トーマス『闇の奥へ』とディーン・R・クーンツ『戦慄のシャドウファイア』。どちらもその後の私の人生の購買を決定づけた書評でした。なぜ『図南の翼』に行かなかったのかは謎。日本人作家だからだったのかな? 結果的には見送ったほうが大魚でしたね…。

新刊

柿沼瑛子の海外ミステリーコーナーを読んでいると「現代ミステリーのモヤモヤ感に疲れた読者」って言葉が出てきます。具体的には何を指すのだろう? 特殊設定とか、何度もどんでん返しを仕掛ける筋立てとか、最後の伏線回収のための伏線だらけの表現とか、そんなことだろうか?

石川美南では、ギリシア古典の『イーリアス』を女性視点が語り直したパット・パーカー『女たちの沈黙』が面白そう。フェルディナント・フォン・シーラッハの名前を見覚えがあるのだけど何だろう。既刊を見ても思い当たるところがないのだが…。

大森望では陸秋槎『ガーンズバック変換』。まずタイトルからしてかっこいい。そして、「発想が独特というか、SF作家離れしている」と凄い褒め言葉なのが斜線堂有紀。どれも面白そう。ところで『回樹』は表題作を読んだとき、男性作家の描く妄想の百合と思ったのだけどなぁ…。

酒井貞道の国内ミステリは変わらず凄い設定とネタの連発。中では冒頭の篠谷巧『君のいたずらが僕の世界を変える』の、夢と現実がごっちゃになる展開が無茶で楽しそう。

松井ゆかりの国内小説が虐待絡み2冊。時代なんだろうけど悲しい。「この本が届いてほしい」と切に願います。

すずきたけしのノンフィクションでは『街角さりげないもの事典』。セルフォンやセンターラインの語源、排除するためのデザイン「アンチオブジェ」等、副題どおり「隠れたデザインの世界を探索する」が実行できそうです。

山岸真のコーナーで知ったけどグレッグ・ベアは昨年末に亡くなったそうです。『ブラッド・ミュージック』を読んだっけか。一緒に「新・銀河帝国興亡史」を書いたデイヴィッド・ブリンとグレゴリー・ベンフォードは存命。ベンフォードは未訳でニーヴンとの合作が3冊もあるのね。『デューン 砂漠の救世主』は旧訳版同様、カバー絵は加藤直之。それはいいけど、だったら『砂の惑星』も描かせてあげてよ。旧版では石森章太郎から映画のスチールになって、その後がなかったはずなので。

落語漫画なんてのがあって、それが週刊少年ジャンプで連載されていると知って驚いたのが、山脇麻生の紹介する『あかね噺』。漫画の熱さ、旨さがよく伝わる紹介でした。これは読んでみたい。落語といえば昔、小南さんの寄席を観て大笑いした記憶があります。会場のムードもいいんですよね。

連載

♪akiraの紹介する映画「高速道路家族」は恐らくきつい鑑賞になりそうなのでパスだけど(「万引き家族」も途中で挫折した)、書籍『世界を騙した女詐欺師たち』は、その詐欺の内容よりも、動機が気になって読んでみたい。

岡崎武志はメルカリで古書店業を始め9打数4安打。ただし文末を読むと先行きは暗そう。古書店もオープン当初に良い商品だけ買われ、後が続かないという話を聞きますからね。個人だと仕入れも大変そうです。

urbansea が紹介する「映画芸術」は崔洋一、大森一樹の追悼号。二人、亡くなっていたのか…。崔洋一はパワハラの人だったらしい。過去に読んだインタビューでは人間味のある人に感じられたがこれも分からないものです。

大槻ケンヂは安田理央本の紹介。今回は『痴女の誕生』。彼は現場にいる中の人だったこと(AVの監督もしている)と、丹念な取材で面白そうです。が私もタイトルに怖気づいてどれも読んでない口なので、別のサブカルやってくんないかな。

川口則弘はNHK記者、伊達宗克。三島由紀夫は事件前に、活字メディアから1人、映像メディアから1人に声をかけていたとか、川端康成がノーベル文学賞受賞したときに三島由紀夫と対談していたとか興味深い話ばかり。

服部文祥が絶賛するのが奥山淳志『動物たちの家』。飼い殺しとか、動物たちが埋めている心のスペースとか。

日下三蔵の書庫整理。諸星大二郎と星野之宣を同じ所に並べるのが同じで嬉しい。まぁ、みんなか。

青山南はスチュアートというネズミの話。ミッキーマウスのことかと思ったけ、「ファンタジア」は戦前だから違うよね。
平松洋子は立ち食いそばのかめや新宿店。あのちっぽけな店にこんな壮大な努力があって年商1億円とは!経営者の気概と才能が凄すぎる。なので、昨今の情勢に八方塞がりを感じているという結びは悲しい。いい風が吹いて欲しい。

藤岡みなみは『リプレイ』。これも北上次郎の絶賛本だったのでは?

風野春樹はオピオイド危機。少し前にPodcastでやたらこの言葉が流れていて何となく病気だろうなと思っていたのだが、「麻薬性鎮痛剤」だったのね。背景の何でも薬で治るという過剰な意識が凄い。

沢野ひとしは思い出の追従に間に合わなかった話。こういう話がこれから増えそうだ。

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