破滅派 18号 – 曾根崎十三「片付けぐらいならできる。」が普通に良い

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破滅派 18号 / 1000円

特集は「検閲」。「破滅派検閲こぼれ話」のタイトルを見た時、破滅派も過去に検閲を受けたことがあるのか!?と驚きましたが、「東京オリンピック 2020 新種目。」の表紙のことだと知って、あぁ、知ってたわ。検閲というより著作権違反に対する印刷会社の慎重姿勢ですね。特集名から感じる「検閲」とはちょっと違う気もするが、表現物への介入ではあるな。

ところで佐野研二郎のロゴ盗用問題は、他の盗用疑惑が出てきた結果、五輪組織委員会も撤回したのでしたね(参考: Legal Search 「結局何だったのか、今だから理解しよう東京オリンピックロゴ問題」)。それでも著作権なのね。

あと関係ないけど今回の入稿や校正は大変だったろうな…。

高橋文樹「ジ・エンド・オブ・マネーロンダリング」

4人の子供と犬の世話の合間に仕事をしている中でかかってくるアル中の愚痴を聞く地獄のような私小説を、愚痴元の山谷感人が検閲し、さらに注釈を加えた作品。

一度は絶交しながら、こうまで人助けする理由をまったく想像できない二人の関係に、何処から何処までがネタで、何処から何処までが創作なのか曖昧なままです。タイトルページの肉筆原稿を見ると相応の推敲の跡があるので、時間をかけた作品にも見えます。
繰り返される「裏切る・裏切らない」という強迫観念と、「常人には」という挿入(p.25)が可笑しい。

大猫「くんよみだけのパラダイス」

中国産、中国由来のものは禁止された世界。箸と紙は何とか代用できたものの、「漢字」だけは仕方なく訓読みで逃げることになる。

単純な訓読みでない「意味を開く」アイデアが良く、そこに著者の知識と研究がうまくマッチしました。「走れメロス」も「山月記」も、オリジナルにあった文体のかしこまりは消えたものの、別次元の柔らかな伝達に気づく意外と楽しい読書になります。

諏訪靖彦「群青十二月号 Juan・B受賞第一作」

Juan.Bの「1988年の強姦」の前半部を作者が検閲した作品。

検閲後の作品も十分イケているし、むしろ言葉の引っかかりがなく、年齢を含むラストの無難で上手い改変に商業的な完成を感じてしまいます。諏訪靖彦的にはしてやったりでしょうが、Juan.B的には駄目なんだろうな。

Juan.B「二〇二二年の癲癇 」

そして、当人の振り返り。エロでも暴力でも政治権力でもなく、「Elephant in the room」たる「菊タブー」による規制、検閲を食らった側の意見。

個人的には、特定の個人を罵倒してはいけない、以上の特別感を現在の皇室には感じないが、「天皇機関説」「クソデカ天皇」の画像を見た瞬間、「これは怒られるな」と思う感覚がきっと「elephant in the room」なのでしょう。
誰が何のために検閲するのか、出版社やサイトは何を恐れて自主規制するのか。奇妙な特権による検閲の拡大をJuan.Bは警告するが、2022年初めの空気感は若干それが和らいでいると思う。それが甘いのかも知らんが。

藤城孝輔「ブリーフ・エンカウンター」

数十年部屋にこもって検閲を続ける俺。他の3人の定住者とは顔を合わせないよう偶然の遭遇を避けて暮らしていた。

どこまでも月が」にも共通する、内向き指向と突然の終わり。どれほど検閲し、言葉や記憶を消し去っても、世界でいちばん醜いと考えている女性がいる恐怖。個人的には誰もいない世界で4人が検閲を続けている構図が面白い。

曾根崎十三「片付けぐらいならできる。」

有希は「絶対殺すマン」、もとい「絶対片付けるマン」として殺害の依頼に応じている。自分の目を刺すことでターゲットは消え、依頼人は記憶を失し、有希の目も元に戻る。

お話が普通に面白いし、グロテスクな殺し方(=超能力)のアイデアも絵的に良い。有希の壮絶な過去、元同僚の喪失感と後悔や絶望。一方で、メインの、グロい暴力描写が検閲され無難な表現に置換されている設定があまり機能していないような気も。

我那覇キヨ「無敵のあなたへ」

ぼくの制作した、政治家の詳細な動向を伝えるサイト『無敵のあなたへ』でターゲットにしていた政治家が殺害される。

サイト立ち上げの動機も内容もリアル。実際にあるんじゃないかこれ?感満載。破産者マップ、振り込め詐欺の元ネタへの言及も面白い。ただし超匂わせな「検閲ルールの背景」「検閲ルール」と本文の関係が分からない。そもそも検閲されているの、これ…?

「思いやり法」黍ノ由

「誹謗中傷による人権侵害防止に関する法律」が可決、施工され、あらゆる思いやりのない表現や行動は規制される。

SNSでの全方位に気を遣った発言、フォローを皮肉った作品。施工をやり過ぎて、「ご自愛法」が出てくるところまでがセットですね。

「5chのある掲示板で書かれていたもの」小林TKG

「べーちゃんはいい死に方をしたよ。」で始まる阿部元首相、奥さん、朝生さん、ガースーに対する追悼(?)の文章。

全体的に2ちゃんねるの肌感覚とは合ってるんじゃないかなと思います、特に朝生さん贔屓の所とか。最後はコロナ禍の父の葬式の話で「いい死に方」の意味がわかります。

「禁書目録の自動更新」諏訪真

筆者らが応援していた反表現規制派の都知事が自殺した。理由が不明なところに、知事の秘書を名乗る男が真相の代償に、知事の手記のある部分を要求する。

目の前のわかりやすい事件の裏で、巨大な陰謀が渦巻く、いかにもありそうな話。と同時に、「検閲」が立場の違いで変わるし、その実行も金銭的、技術的な問題に左右される様を、素人が政治参加して翻弄される点も含めて自虐的に描かれます。

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