本の雑誌 2021年1月号 – 編集部会議がとても良い

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本の雑誌 2020年12月号 (No.450) / 本の雑誌社 / 815円 + 税
表紙デザイン クラフト・エヴィング商會 [吉田博美・吉田篤弘] / 表紙イラスト 沢野ひとし

特集は「本の雑誌が選ぶ2020年度ベスト10」
編集部会議がとても良いです。
今年は国内ノンフィクション当たり年として、世界のヤバい人たちのヤバい飯を食うドキュメンタリーテレビ番組の書籍化、上出遼平『ハイパーハードボイルドグルメリポート』、福島原発事故被災地にいた消防団を描く、吉田千亜『孤塁』、ダムに沈んだ徳山村の最後の一人のおばあちゃんの話、大西暢夫『ホハレ峠』、剱岳の初登頂以前に錫杖頭と鉄剣を埋めたのは誰か、高橋大輔『剱岳 点の記』。書き写しているだけでワクワクする充実ぶり、当たり前ですが選出したリストだけじゃないんだな、と改めて思います。

海外作品は『果てしなき輝きの果てに』派か『ザリガニの鳴くところ』派かに分かれるらしく、マンガは『どくヤン!』、ミステリーは『化け者心中』、ファンタジーは『影を呑んだ少女』、金原ひとみは『fishy』とエッセイの『パリの砂漠、東京の蜃気楼』が良さそう。
ちなみに最初は軽く読み飛ばしていたら、何度か異なる視点で語られて興味を増すことがよくあり、今回は『化け物心中』がそう。ベスト10で紹介され、時代小説ベスト10で推され、古山裕樹の新刊でも語られて少しずつ。でもこれ以前、新刊紹介あったよね? と思ったら宇田川拓也が11月号の「ミステリー春夏秋冬」で早々と紹介していたのでした。よほどいいのでしょうね。
桐野夏生『日没』も同じ。最初は安い社会批判に見えたけど高頭佐和子、佐久間良子の紹介で徐々に怖くなった。他のページでも『心は孤独な狩人』は最初の紹介で村上春樹訳にばかり注目していたけど田口久美子の紹介では視点が逆になって興味を持ったし、鏡明がフェミニンな視点で紹介した『暗闇にレンズ』を、橋本輝幸がSF視点で紹介し直して関心を持てたり。

読者のオススメでは、女子高生シンガーソングライター桜田さんと、動画で紹介したい松尾君らを描く武田綾乃『どうぞ愛をお叫びください』、熱く中原涼を紹介する大方直哉さんの文章、4コママンガで文学する辻灯子『おんなのおしろ』が良い。

『失われたいくつかの物の目録』をベスト3に挙げたのは春日武彦とクラフト・エヴィング商會。らしいよね、『奇妙な孤島の物語』も思い出させてくれました。
ショーン・タン『内なる町から来た話』もですね。編集部、クラフト・エヴィング商會、佐久間文子と来て書影が出て「あ、あれか!」となりました。

鏡明は毎回ベスト10の意義を語りますが、今年は特にわかりやすい。
「毎年のベスト1を十年分並べれば、それで十年間のベスト10が作れるわけではない(中略)毎年のベストにはその時点での状況が反映される」。
その視点で語られる1位がチャン『息吹』を抑えてアリエット・ド・ボダール『茶匠と探偵』。全くノーチェック。『宇宙へ』は大味っぽく感じたのだが4位。表紙が最高の『空のあらゆる鳥を』は5位。

後の連載では選から漏れた作品の紹介あり。中国SF、『マーダーボット・ダイアリー』『彼女の体とその他の断片』『抵抗都市』『アメリカン・ブッダ』。ここらへんが好み。

栗下直也のノンフィクションベストの1位は花房観音『京都に女王と呼ばれた作家がいた』。山村美紗の評伝で西村京太郎とのことも触れているとか。だからでしょうね、西日本出版社というよく知らない会社から出ています。
北上次郎は10作中4作がラノベ系。同じページでマーク・グリーニー『レッド・メタル作戦発動』にも触れる。こんな読書に憧れます

新刊ガイド。
キングの新刊が単行本と文庫で出たけどちっとも読めていないので吉野仁の紹介は丸々1ページをスキップ。グリシャムを村上春樹が翻訳したのは「グレート・ギャツビー」つながりなんだろうな、『「グレート・ギャツビー」を追え』。
藤ふくろうの新刊紹介はどれもいいけど、ここでも村上春樹翻訳作品、カーソン・マッカラーズ『心は孤独な狩人』。
古山裕樹の紹介では逢坂剛『鏡影劇場』、井上雅彦『ファーブル君の妖精図鑑』が良さそう。
冬木糸一は科学系ノンフィクションの紹介ですが、短い文章で概要を説明するだけでも大変なのにその本の魅力や驚きもうまく伝えています。

高野秀行は『ユービック』を読んで、作品を面白がれない自分は退行しているのでは?と不安を感じます。わー、ディックの主人公じゃん。真面目な話、短編や『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』がいいんじゃないかな。
山本貴光は古書に対する触覚を紹介した上で、嗅覚も、と繋げ今回の1339年に武士が作った『首楞巖義疏注経』を紹介。情報量が凄すぎる。
穂村弘はチャンドラー『長いお別れ』が「オールタイムベスト級の傑作ミステリ」だとか。このタイトルだから清水俊二訳と思うが、村上春樹訳『ロング・グッドバイ』はどう思っているのだろうか?
宇田川拓也は新井久幸『書きたい人のためのミステリ入門』。私はミステリ小説で犯人が当たったことが一度もない人間なのでまったく書きたいとは思いませんが、小説作法には興味があります。
♪akira の映画は好みの線なので期待。「ビルとテッドの時空旅行」は「大冒険」さえ知らないけど良さげ。
山岸真は『2010年代海外SF傑作選』『わたしたちが光の速さで進めないなら』『炎と血1』『夏への扉 (新版)』。タイトルだけでドキドキ。

べつやくれいはまず『ハイン 地の果ての祭典』。

書店で私も見かけましたがインパクト強いですよね。そのあとの飛田良文『明治生まれの日本語』もいい。犬の名前の「ぽち」も明治生まれ。なら、「うらのはたけで ぽちがなく」は昔はなんだったんだという超おもしろ話。

下井草秀は雑誌「デザインのひきだし」の紹介。最新号は「写真と図解でよくわかる製本大図鑑」で、80種類の製本法が紹介され付録は実物サンプル6種。amazon ではもう倍の値段になっています…。
V林田の「鉄道書の本棚」は絶好調。鉄道関連の月刊4誌の特徴とか、それに加えて『レイル・マガジン』を「サブカル的ポジション」と気が狂いそうな位置付けし、湯口徹のRMライブラリー、後世に何一つ残さない石油発動機関車を紹介。いろいろ凄い。
大山顕のマンションポエムは「垂直に伸びた郊外」としてタワーマンションを取り上げ、東急不動産に結びつけます。着地点を決めてから書いているのだろうけど導入から、途中の高架下建築のエピソードまで上手いよなぁ。

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