本の雑誌 2020年12月号 – 本の雑誌1号(100円)とすれ違っていた…。

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本の雑誌 2020年12月号 (No.450) / 本の雑誌社 / 800円 + 税
表紙デザイン クラフト・エヴィング商會 [吉田博美・吉田篤弘] / 表紙イラスト 沢野ひとし

45周年を迎え表紙デザインが一新されました。ロゴが創刊当初のものを思わせていいですね。

「本棚が見たい!」今月の書店は日本橋 COREDO の誠品生活。台湾から上陸したオシャレ書店として一時話題でしたが私はすっかり忘れていました。写真で見ると文学の廊下、鳥居をイメージした通路、落ち着いた照明等々、本当にオシャレ。通勤途中なので是非行ってみたいものです。いつになるやら…。

特集は「45周年&450号記念号」

現役編集部やOB/OG、関係者によるエピソード満載の楽しい振り返りです。登場人物たちが濃いからエピソードに事欠きません。
大森望(と山岸真)は「この10年のSFはみんなクズだ」に賛同した側と思われていたのですかね。私はSFファンですが当時は『ハイペリオン』があるくらいでSFいけてないなぁと思っていた口です。多くの人もそう思っていたからこのような特集も出たのでしょう。なので、そんな厳しい状況でも大森望はがんばるなぁと見ていました。その後のSFの盛り上がりは一重に彼のお陰だと思う所以です。
香山ニ三郎は経営危機について触れています。原因はリーマンショックに伴う広告スポンサーの激減だったと初めて知りました。しかし現在はそれよりも遥かにひどいコロナ禍。広告を出してくれている出版社も含め、是非生き延びてほしいものです。
吉野朔実、坪内祐三の逝去は編集部の深い所にズシンと沈んでいるのがつらいですね。浜田公子の今も宛名ラベルを打ち出している様子には泣きました。

読者の「本の雑誌」に対する思い出を読んでいたら私も思い出しました。

大学1年か2年のころ、当時読んでいて「ダカーポ」で「理想の雑誌を丸々1冊分想像する」とかいう特集があったのですが、これに噛み付いていたのが「本の雑誌」でした。「むやみに怒っていて何なんだ…」と思ったのを覚えています。それからしばらく立ち読みで済ましていましたが、そろそろ買うかなと思った頃が特小号でなんか損している気分になって見送り、その次の号から買い始めました。大学4年に書店でバイトし始めたときはすっかり愛読者で、社員さんに買い切りの本の雑誌社の単行本を並ばせ、『もだえ苦しむ活字中毒者地獄の味噌蔵』が売れて喜ばれたり、あんまり売れないので自分で買ったりしてました。会社員になってすぐに定期購読を始め、一回、延長し忘れて連続記録は途絶えたけど以来、30年読者です。ネットオークションが始まってからはバックナンバーをぼちぼち集めさすがに1号~10号は再発で我慢し、先日の神保町ブックフリマで抜けていた14号を500円で直接本の雑誌社で購入し、あと4冊。欠番は19、20、39、53 です。

などと思い出にふけっていたら、世田谷区在住 伊藤俊徳さんの投稿「燃えるコレクター魂」に「本の雑誌にまつわる事件といえば、10年前に自由が丘の古書店で本の雑誌1号を入手したことでしょうか。100円でした。」にぶつかって。ええっ!! 近くを通り過ぎていたのかぁ…、がっくし。

ところで調べると「ダカーポ」は2007年12月で休刊、その後は WEB マガジンとして継続していると Wikipedia にあって、おぉ、続いているのか!? となりましたが2016年末で更新が途絶えていました。ページを残しているだけ偉いけど。

石田衣良は通常の倍の6万円でフロア貸し切りのお買い物。何故こんな破格の待遇なの、人気者だから? ただしエッセイは企画に沿ったストレートな選書で好印象でした。

12月号なので連載終了がいくつか。
内田剛「アルパカ文庫堂」は苦労作なのでしょうが結局一度も評価できませんでした。坂上友紀「本は人生のおやつです!!」もイマイチ合わなかったです。田代靖久の情報センター出版局と星山局長の連載は「未了 / 単行本につづく」。うーん、もうちょっと本誌で読みたかった。

連載開始はQ.B.B.の「古本屋台」。2本目が良かったのでこのまま行きそうですね。V林田「鉄道書の本棚」では、明治期に起きた鉄道敷設反対運動(「宿場が寂れる」「火の粉で火事になる」等々)は後世の作り事だったとする青木栄一『鉄道忌避伝説の謎』を紹介して、いきなり面白すぎる。これからが楽しみです

新刊ではイスラエルSF&ファンタジー傑作選『シオンズ・フィクション』と、北上次郎が「うまいなあ山本文緒」とまとめる『自転しながら公転する』。タイトルからしていい。

西村賢太の「一私小説書きの日乗」という日記が何故面白いのか謎。自分でもよくわからない理由でいつもいつも楽しい。一緒にいたらすぐに怒られそうなので遠くから会ってみたい。

田中香織が紹介するのはつるまいかだ『メダリスト』。26歳の司と11歳のいのりで挑むアイスダンスの世界。この絵柄で講談社ならストレートな面白い漫画でしょう。恋愛要素をどうするのかも興味あり。唐突に『愛のアランフェス』が浮かびました。

大山顕のマンションポエムは堂々7ページの大作。「逆梁アウトフレーム工法」という強い言葉と共に高層マンションの「裏側」を見せ、かつ都市の裏側に屹立すると結びます。素晴らしい。あまりに気合が凄いのでこれも連載終了かと危惧ました。なお来月は20年通った中央林間駅。楽しみです。

高野秀行は『ユービック』。ディックを読むってこうだよね感が満載でした。ただでさえSFは世界に入るのがしんどいのに、ディックは更に面倒だし、入ったら入ったで話はショボいし、盛り上がらないまま「なんなんだ、これ」って感じで終わってしまうし。『地図にない町』などの短編はとても楽しいのに、長編はどれを読んでもピントが合わなくてイライラする感じ。ここからは人それぞれ。それで終わってもいいし、もう少し続けて世界に慣れてもいいし。これからどうなるかな。「死闘」だから苦労するんでしょうね。
服部文祥が度々紹介する「狩猟者の獲物への感情移入」って好きなんですよね。それはモンゴロイド特有のものかと思っていたらアフリカにもあるというのが『「本当の豊かさ」はブッシュマンが知っている』。狩猟採取で暮らしていた縄文人はあまり労働しなかった説も含めて豊かさってなんだと思わされます。ところで今回のタイトル「「言葉は文化の主要媒体ではない」に書き手の私はおののき、狩猟者の私は賛同する」ってこの本のことなんだろうけど、本文とは微妙にずれてない?
速水健朗は森村誠一『タクシー』。タクシー運転手の蛭間が乗せた女性は刺されており、佐賀と行き先を告げて亡くなる。残された50万円と住所と遺体を乗せて佐賀に向かう途中、盲目の少女を拾う。どこで見つけてきたんだ、こんな無茶苦茶面白そうな、2002年の作品を。
山本貴光は印刷博物館 https://www.printing-museum.org/ のコレクションとマルジナリア。凸版印刷の博物館なんてあったんですね。これも行きたいわー。
円城塔は『微積分のこころに触れる旅 掛谷の問題に導かれて』の紹介。「おすすめしたものなのかどうなのか。/ 美しい本である。/ 楽しい本でもあるはずだ。」面白がれるといいがな。
石川美南の詩歌の紹介はいつも良いけど、今回の穂村弘『水中翼船炎上中』の短歌はノスタルジーが全面に来た美しさでした。
風野春樹は『明治を生きた男装の女医 高橋瑞物語』。日本で3番目の女医、高橋瑞の生涯。馴れ合わずに他の女医と連帯している姿ってのがかっこいいです。

読み物作家ガイドは古屋美登里が吉田健一の10冊。「この短編集のなかの作品はどれもたいていふらりと始まる」がいい。

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