本の雑誌 2020年8月号 – 上半期ベストは『パラスター』

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本の雑誌 2020年8月号 (No.446) / 本の雑誌社 / 800円 + 税
表紙デザイン クラフト・エヴィング商會 [吉田博美・吉田篤弘] / 表紙イラスト 沢野ひとし

特集は「落語本で笑おう!」

東京の落語と関西の落語が違うことさえ知らない私でも、堀井慶一郎と杉江松恋の対談には「音」や周辺の批評や演者の生き方から幅広く落語を捉えることができました。その後の落語本や落語レコードの紹介も真正面からの紹介。どのページも噺より落語家の方に重きがある(ように読める)のが面白い。

もう一つの特集は「2020年上半期ベスト1」

目黒、浜本が、ツボを抑えた読み所を次々と紹介し「今年上半期の傑作の多さ」を証明する素晴らしい対談。業界全体を考えた目配り、気配りもいつもどおり。結果、トップ3はラノベ出身の作家の間に馳星周を挟んで

  1. 『パラ・スター』
  2. 『四神の旗』
  3. 『処女のまま死ぬやつなんていない、みんな世の中にやられちまうからな』

児童文学、脚本家に続いて「今はラノベの人がすぐれた一般向け小説を書くという新しい流れがきている」そうです。なお今季の直木賞は馳星周だそうです。「本の雑誌」出身の方が受賞と聞いて嬉しいですね。

新刊では冬木糸一の紹介するノンフィクションがどれもいいです。特に第1次世界対戦時に機能した魔術や占いを紹介する『スーパーナチュラル』と、2700件以上の国として行ってきた暗殺作戦を描く『イスラエル諜報機関 暗殺作戦全史』は冒険小説としても読めるし、後者の暗殺が当然の場合の倫理的代償はこちらの思考を遥かに超えてきそう。

古本屋を経営して10年の坂上友紀の生き方は私とあまりに正反対。いいとか悪いとかでなく絶対できないなぁと思います。

下井草秀が紹介する「ギター・マガジン」6月号内の SEX MACHINGUNS の ANCHANG のエピソードが痛い。鹿児島の大学に通っていて、大分まで遠征してライブハウスデビューって、鹿児島はもちろん、途中に素通りされる宮崎もイケてないなぁ…。ちなみに横山健によるとライブハウスは日本独自らしい。

穂村弘は『スラムダンク』の再読。羨ましい。1、2巻の感想はまさに普通の不良漫画。そしてグングン良くなる。私は三井くんのエピソードくらいまでで中断しているのですが続きを読むには整形外科に通院して待合室に行く必要があるからなぁ。

日本のコロナ感染者が少ないのは角川春樹が長野で祈祷しているかららしい。『帝都物語』に出てきたときは版元社長への忖度かと思ってたけど本物だったんだ…。

高野秀行は『宇宙消失』。唖然呆然のバカSFをどう読んだのか次号に期待。

山本貴光は書評のマルジナリア。「目的が書評や季評ということもあって、(中略)内容を適切につかんで理解する必要がある。」として黒田夏子『組曲 わすれこうじ』、岸政彦「リリアン」を読み下す様子を紹介しています。一見、マルジナリアの解説ながら山本の書評に対する真摯な姿勢が浮かびます。
関係ないけど最近書評関連で良かったのが高橋文樹のツイート。こんなん書けないけど。

平松洋子の「そばですよ」は番外編でコロナ禍での立ち食いそば屋の話。中野「かさい」店主の反応はどこかで他人事と思っている私とは、明らかに次元が違う、心の底から恐怖が伝わる言葉でした。お店側がどんなに注意しようと私のような「緩い」客が来る以上、有効な解決手段がありません。厳しい…。
以前は「早く落ち着きますように」と願っていましたが最近は願うことさえ許されない感じ。with コロナ、という言い方も軽かったんだなと思います。

青山南のエッセイは枕の飯間浩明の取り上げる言葉が面白い。「ああ、つらみ」「世界線」。確かに最先端。

三角窓口はコロナで読書が進んだ人多数に対し、進まなかった人は1人主婦のみ。私は後者ですね。通勤の読書時間が仕事に変わりました。おかげで雑誌が減りません。

円城塔は吉祥寺『アテスウェイ 川村英樹の菓子』の紹介。平明で透明なレシピの向こうにぎっしり並んだ何か、「自分にもこのどれかを作ることができると思うかと訊かれたならば、即座に「否」と答えるしかない何か」を感じてみたいと思いました。

江部拓哉は「かつロン」。これまでのエッセイ同様、掴みがいいんですよねぇ。今回も一気にくたびれた喫茶店とロン婆に引き込みます。

沢田史郎は小野寺史宜の10冊。個々の作品を「つながり」で読み解きながら全体をつなげて全貌を見せる趣向。前半に『ホケツ!』を丁寧に解説した分、後半の短い紹介のポイントもよく分かる仕組みで魅力的な紹介になっています。初出時にも気になった『ひと』が良さそう。

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