本の雑誌 2020年5月号 – 大山顕と速水健朗の連載がとてもいい

投稿日: カテゴリー

本の雑誌 2020年5月号 (No.443) / 本の雑誌社 / 667円 + 税
表紙デザイン クラフト・エヴィング商會 [吉田博美・吉田篤弘] / 表紙イラスト 沢野ひとし

沢野ひとしの表紙の言葉「林芙美子は無邪気な微笑を浮かべよく旅に出た。でも心の底に意地悪なところがある。」読みたい!

特集は「薄い文庫を狙え!」。本の雑誌らしい特集です。

霜月蒼の「薄ミス・ベスト10はこれだ !」。必要最小限のページ数に詰まったアクションやヴァイオレンスの濃度や凄みがよく伝わる内容で、冒頭からいきなりガツンときました。一方で本格のクリスティ『ポアロとグリーンショアの阿房宮』への目配りも。ちなみに読者、江森美香の紹介も素晴らしい。
萩原魚雷は立って息するのもやっとくらいのぐだぐだ感を肯定する本の紹介。現在の新型コロナによる閉鎖的状況で、逆に彼はどう過ごしているのか? としばし思うと冷凍そら豆にはまってました。次元が違うとのこのことです。
鈴木雅代は「『5ミリ文庫』コーナー」を展開中の書店員。どこの本屋かと見ると、SFや海外文学の素晴らしいディスプレイを誇りながら恐ろしいほど人がいないと一時話題の HMV & BOOKS SHIBUYA でした。今度行って薄い本のコーナー見たついでに何か買います。
加藤製本社へのインタビュー。薄い本の製本では、しおり紐が大変というところから、「十二国記」新刊を揃えるのが大変だった話へ。製本の途中で紐を本体に挟むのは手作業らしく、それが50万部分。来る日も来る日も「十二国記」を作っていたらしい。いい話だ。
武者小路実篤『愛と死』が良さそう。

高野秀行『スローターハウス5』はいつか読むのでスキップ。彼の連載「SF音痴が行くSF古典宇宙の旅」はスキップばかりでほとんど読めてません(泣)

円城塔は『みずほ銀行システム統合、苦闘の19年史』を大仏建立と比べて「抽象度を増した技術の伝達や、複雑さを増した組織における意思決定の難しさ(中略)運用上の様々なスケールが根本的に異なっている」と分析します。続けて風野春樹は『最期の言葉の村』の消滅する言語に対して多様性が失われる云々というのは傲慢ではないかという著者の言葉を引きます。この二人の長い連載は本の雑誌の宝ですね。

一方、比較的新しい連載で素晴らしいのが大山顕と速水健朗です。
大山顕のマンションポエムから語る東京論は、今回は三上たつお命名の「同心円メソッド」を紹介します。例えば、東京駅からの直線距離で同じだから三軒茶屋と同格と言いたい船堀のマンションとか。「ぼくらは東京を方角ではなく、もっぱら「吊革につかまって何分か」だけで把握している。」
速水健朗は乱歩が描いたクルマ小説に絡めてマイカーブーム直前の時期だから成立するトランクに入れた死体、マンションの誕生、ダムに沈む集落と1950年代ばの文化を語ります。
今月号の一番の驚きはこの二人が一緒に仕事をしている事実でした。

田代晴久は情報センター出版局のセンチュリー・プレスについて。『さらば国分寺書店のオババ』みたいなフォーマットの本、と言えば私の年代ならあーあれねと分かるはず。ただし私が大学生協の書店コーナーに並ぶセンチュリー・プレスを見たころにはすでにちょっと古い、一つ前の世代のサブカル本って感じがしてましたね。
その学生時代には薬院の焼き鳥屋でバイトしてましたが確かに鶏肉以外に、バラ、タン、ハツ、ナンコツ、レバー等々が普通にあったなぁと思ったのは、べつやくれいの『食は「県民性」では語れない』から久留米の焼き鳥の話を読んで。ちなみに博多の焼き鳥屋はレモン酢のキャベツが付け出しです。

下井草秀が「風俗と旅行の見事なバランス」というバンコク発の「Gダイアリー」は読んでみたかった。

鈴木輝一郎はバックアップの話。1行書くごとに Ctrl + S、原稿執筆用にパソコン2台を用意し、バックアップは外付けHDD4台(メーカーは別)、同期用USB2本(手動でバラバラに同期)、クラウド環境2つ。失うものが時間とお金と芸術と思えば必然的にこうなります。まったく過剰ではありません。特に予備のパソコンをすぐに使える状態に維持しているあたりは深く深くうなずきます。

服部文祥は3ヶ月のハングリーな旅に犬を帯同した結果が「犬は所詮、犬である」と身も蓋もない結論。これが現実…と見せておいてからのひねりがいい。

青山南は『ミルドレッド・ピアース』の小説と2本の映画を同時に紹介。大恐慌時代に子煩悩なシングルマザーが傲慢に育った子供を許し続ける話とか。なんて面白そう。

新刊では高岡哲次『約束の果て 黒と紫の国』、北上次郎が泣きっぱなしという阿部暁子『パラ・スター』、宇田川拓也の推薦する『あの本は読まれているか』。ただ最後のは一緒に言及された『ザリガニの鳴くところ』がもっと面白そう。あれ、なんでノーチェックなんだ、私?

泉鏡花の10冊は東雅夫。初心者、入門者を意識したセレクションになっていてありがたい。

黒い昼食会。東野圭吾は「最近は中国のほうが売れてるらしくて、内容も中国で受けるようにしてるとか」。藤井太洋と高橋文樹の対談でも中国の本屋には東野圭吾コーナーがあると言ってましたね。
松田哲夫のコメントはよくわからないが「ファンタジー」といえば良かったのではないだろうか、「SF」が余計。

次号は「翻訳出版の謎と真実!」楽しみです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です