本の雑誌 2019年3月号 – 最近は岡部愛のオススメ漫画がいい

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本の雑誌 2019年3月号 (No.429) / 本の雑誌社 / 667円 + 税
表紙デザイン クラフト・エヴィング商會 [吉田博美・吉田篤弘] / 表紙イラスト 沢野ひとし

特集は「出版業界消えたもの列伝」

文芸編集も、書店も、ブックデザインも、80年代以降のコンピュータの進化により根本から形態を買えたことが分かる特集でした。効率化、集約化なんでしょうが、やはりどこか昔の人間臭い空気を羨ましく思う部分があります。例えば「英語やフランス語は読めないけれどスペルはだいたい憶えているという熟練の植字工」とか「文字入力から鑽孔テープを打ち出し、これを読みとって溶けた鉛から活字を鋳造し、設定された字詰・行数で組版し、インテルまで入れるという工程を一貫して自動で行う」「究極のアナログマシン」とか。ここに小山力也がウィロード山王商店街の古本屋遺産として紹介した大森の「松村書店」も加えていいかも。

「冒険小説」を連呼しているのが馳星周。坂東齢人時代の書評はサッカーと飼い犬の話のほうが記憶に残っていますが、デビューしたときは嬉しかったな。北上次郎が身内だからと遠慮して紹介しなかったため、年末に振り返るまで彼が馳星周とは知りませんでしたが。

新刊はレオ・ベルッツ『どこに転がっていくの、林檎ちゃん』。第一次世界大戦後、捕虜収容所の司令官に復讐に行く冒険小説で何と1927年の作品。出版は「え!?」のちくま文庫。小財満の紹介がなければ文芸作品だと思います。
SFはスコルジー『星間帝国の皇女』、ホーガン『火星の遺跡』のまんまなタイトルと作者で信頼度抜群ですが、何とここに北上次郎がコニー・ウィリス『クロストーク』を絶賛。2018年オールエンタメで1位とまで言っています。これは読む。

世代の中間にいてこっちでは最年少、こっちでは最年長という感覚はあるあるですね、穂村弘。でもスタンヒルとか出てくると、どんだけ年配の集団やねんと思い、彼の生年を調べると1962年。え。そんな年だったの!? おじさんとは思っていたけど、写真とかで見る感じで40代、下手すれば30代と思っていたのに…。

リイド社「トーチweb」は、おっさん雑誌専門会社の通販サイト、ではなく、アングラでサブカルなチャレンジに満ちた若い作品の多いサイト。挙げられたのは赤瀬由里子『サザンと彗星の少女』、澤江ポンプ『パンダ探偵社』。後者の1話~3話を試し読みしたら、透き通った空気に惹かれました。
岡部愛のお薦めはいいなぁ。「bar図書室」絶対行くぞ…ちょっと怖いけど。

べつやくれいはヤクルト宮本慎也ヘッドコーチの怖いものの分析。笑いました。これは怖い。

原カントくんは「月刊住職」の紹介。実態は煩悩爆発ゴシップ雑誌で、大槻ケンヂが寄稿しているのはまだ予想の範囲内ですが、1月号の特集「お寺が人工知能と上手につき合うために」には笑いました。まぁ内容は電子マネーでお賽銭、程度と思いたいのですが…。

西村賢太は毎回「ケチなKADOKAWA」を連呼していますが、実際にケチだったエピソードの記憶がありません。原稿料が安いのか、単にエピソードを書いていないのか、よほど以前がひどかったのか、最近良くなったのか。喜国雅彦、日下三蔵とのエピソードがいいです。

内澤旬子はスーツ一式、黒ジャケット、ピアス、ネックレス、バッグで20万円。きっと安いんでしょうね…。となると、これまでのバーニーズ・ニューヨークのスーツって、いくらだったのだろう..。

山本貴光は「漢文の不思議」で、なぜ中国語を覚えず「訓読」を開発したのか、してしまったのか? 考えるに元々「翻訳」が好きな民族で、たまたま読める文字だったからそのまま残したって所ではないでしょうか。
突然思い出しましたが、大学時代に先輩がニューヨークのユースホステルに行き、天安門事件が話題になった折、世界で唯一人「ティンアンミン」という発音がわからず馬鹿にされたそうで。孔子も「こうし」じゃないらしいし。

鏡明は横田順彌について少しだけ触れています。語られるエピソードも、彼の思いも痛々しいです。

青山南はセンター試験にあった大誤植について。今年(31年度分)の国語の試験には沼野充義「翻訳をめぐる七つの非実践的な断章」が使われていて、その中で『翻訳家という楽天家たち』のタイトルにふれる部分があります。誤植は…笑いました。確かに大問題。サイトを見る限り現時点で未修正です。今後もないんじゃないかなぁ…。ちなみに問題正解。私は問2、正解でした!

円城塔は行動経済学のキャス・サンスティーン『命の価値』、風野春樹はピーター・ゴドフリー=スミス『タコの心身問題』。
堀井憲一郎は『レ・ミゼラブル』にどれくらいジャンバルジャンが出てこないか。ふざけつつも意外としっかりした長編小説のガイドになっています。
山崎豊子は56年の作家生活で長編16、短編集2 しかないんですね、その中の10作品なので強い、強い。中川右介のお薦めどおり『仮装集団』に一番興味を持ちました。日本共産党の闇ってなんだろう。

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