本の雑誌 2018年12月号 (No.426) / 本の雑誌社 / 667円 + 税
表紙デザイン クラフト・エヴィング商會 [吉田博美・吉田篤弘] / 表紙イラスト 沢野ひとし
特集は「理系本は面白い!」円城塔と山本貴光がそれぞれ理系本を100冊選んで望む対談に始まり、「数学」「遺伝子」「宇宙」「人間の思考」の各分野をきっちり網羅し、読者のおすすめ本で締めるという真っ当な特集でした。ふざけたり、ごまかした部分もなく、とても良い編集だったと思います。
全体を通して感じるのは古典の価値。アリストテレスの本なんて今更読んで意味があるのかとも思っていたのですが、これだけ二人にお薦めされると妙な説得力があります。目の前の疑問や課題に対する真摯な解決への挑戦や知的な思考は現代の研究とも共通するからでしょうね。
新刊は♪akiraのものが話題のホロヴィッツ『カササギ殺人事件』に、キング『任務の終わり』に、お久しぶりのクーンツ『これほど昏い場所に』と、必ず読む作品ばかりで逆に書評を読めず。これは速水健朗のキング『11/22/63』を取り上げている「モーター文学のススメ」も同じ。面白い連載なので残念。あとで必ず読みます。
SFは11歳の時にわずかに垣間見た20年後を生きる中田永一『ダンデライオン』と、「純度100%の恋愛小説を実現するためのターボ装置として時間ループ」を利用する竹宮ゆゆこ『あなたはここで、息ができるの?』の2本が圧倒的に面白そう。タイムリープってどうしてこうも魅力的なアイデアがネタ切れにならず生まれ続けるんでしょうね。斉藤詠一『到達不能極』のような現代と過去のパートがクロスするのも好物ですが。
北上次郎と風野春樹が挙げたアイカー『死に山』は事件そのものが不思議すぎるからどう料理しても面白そう。ただしアイカーの結論について風野春樹は納得していません。
穂村弘は「真夜中の電話」と題して、歌人の友だちが掛けてくる、無意識に盗作していないかを確認する電話の話。ネット以前の大変さは容易に想像つきます。ではもっと短い短歌はどうだろう? と思うと、これはもうだぶるのが当たり前の世界みたいで、更に奥が深かった。
おおお!! となったのが P.65 の広告。のがわかずお『高円寺文庫センター物語』。1991年-1996年まで中野区野方に住んでいて最寄り駅は高円寺で、毎晩北口から出て家に帰る途中で寄っていた本屋が「高円寺文庫センター」でした。あれ、伝説だったのか!? あそこで古屋兎丸『Palepoli』と「紙のプロレス」を最初に買ったんだよなぁ…。
元になった(?) 連載がありました。
http://best-times.jp/category/ss-koenjibunkocenter
ちなみに近くには Auviss という品揃えの良いレンタルビデオ屋があり、こちらも常連でした。アントニオーニとタルコフスキーはここで借りました。あとラーメン屋の「峰」。
岡部愛はむつき潤『バジーノイズ』。オシャレ音楽業界モノの漫画で作者の感覚だけで描いているだろうと思ったら実はマーケティングと取材の成果だったという話。そこまでしないと売れない時代、と頭では分かっていても厳しいなぁ。
鎌倉幸子の最後の段落で連載を終了することが分かりました。男木島図書館が取り上げられずちょっと残念でした。それから慌てて編集後記を確認すると、うわっ、秋葉直哉の連載が終わってしまった…。残念。私のまったく興味のない詩や文学を取り上げながら繊細なタッチで語られるエッセイは美しく、特にその息遣いが好きでした。是非復活されることを願います。あと矢部潤子の「今月の男前」も終了。懐かしい冒険小説を度々取り上げてくれてありがとうございました。
その後、西村賢太の「『小説現代』連載、「誰もいない文学館」の最終回を書く。」を見て、こちらも連載が終了したのね…と思っていたら理由は小説現代の休刊。え、まじか!? と思って調べると、割と大きなニュースになっていたようです。全然知りませんでした。少女漫画といい、小説誌といい、雑誌は売れてない…。
堀井慶一郎はドストエフスキー『悪霊』の登場人物名が覚えられない、という相変わらずくだらないネタ。でも段々分かってきたのですが、むちゃくちゃロシア文学が好きだな、この人。あと近代の日本人作家とか。何者なんだろう? 調べたら負けの気がするのでどこかで偶然遭遇したい。
読み物作家ガイドは藤富士子が吉田修一の10冊。『東京湾景』のイメージしかなかったのでこんな多彩な人だったんだというのが正直なところ。先月号の速水健朗の紹介が良かった『悪人』や、映画化された『怒り』とか。