おすすめ文庫王国 2018 – 東えりかのノンフィクション、タニグチリウイチのライトノベルの紹介が丁寧でよかった

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おすすめ文庫王国 / 本の雑誌社 / 2018 / 760円+税
表紙イラスト: 長崎訓子 表紙デザイン: 島田隆

1位は須賀しのぶ『夏の祈りは』。高校野球の地方大会が舞台のありがちな人間ドラマの連続劇に見えますが、こうまで編集部が推すんだから凄いのでしょう。須賀しのぶは同時に読んでいた「本屋大賞2017」でも3冊が紹介されています。
2位『東の果て、夜へ』はアメリカ横断ロードノベルに少年の成長小説を絡める話で好み。
3位『マタギ』は矢口高雄の漫画。「絵が古くない」。元々ちょっと古めの絵でしたから逆に功を奏しました。松本零士と同じ感じか。

読者アンケートでは『仲代達矢が語る 日本映画黄金時代 完全版』が読みどころ多そう。引用してある、「影武者」の交代劇の件で仲違いしていた勝新太郎が、突然、妻の葬式に来るエピソードだけでウルウルします。

ジャンル別ベスト10

「現代文学」からは『まっぷたつの子爵』がバカバカし過ぎて良い感じ。オチは予定調和かな?
「恋愛小説」は凝った関係性やシチューションのものが多く、子供の私は『モノクロの君に恋をする』『未必のマクベス』みたいな幼く、シンプルなストーリーが好み。後者は国内ミステリーでもランクインしているのでもう少し強いのかも。一方で、新訳なった『あしながおじさん』のおじさんの得体の知れない不気味さを、今も許せるかどうかは謎。『荒野』の紹介文には高橋文樹の『途中下車』を思い出しました。
「SF」は『神の動物園』や毎度のグレッグ・イーガンにに混じって、コードウェイナー・スミスやハーラン・エリスンなど懐かしい名前が並びます。
「国内ミステリー」では『探偵が早すぎる』。ほんとよくこんなの思いつくなぁ、と調べると作者は『その可能性はすでに考えた』の井上真偽。さもありなん。
「海外ミステリー」はどれも凝った話で好みですが、1位は例外。何故興味がないのかしばらく考えて、私が警察モノを敬遠していることに思い至りました。そうか、これでいくつかのミステリーにまったく興味が湧かないことへの説明がつくな。ところで枕にある「本が売れない」は取ってつけたようで本文と何のつながりもありません。これ要りますか?
「雑学」も紹介がとっちらかり気味。ベスト10入りした作品より、落とした作品の説明のほうが長いものもあります。
東えりかの「ノンフィクション」は作家や作品の特徴と過去作品を丁寧に紹介した上で、読みどころを的確に伝えるガイドになっています。しかも選出したベスト10はどれもが風変わりで興味深いものばかり。『三種の神器』『サンダカンまで』『佐治敬三と開高健 最強のふたり』等々。9位と10位が内澤旬子と高野秀行という所も分かっています。

偏愛文庫コーナーは「音楽を読む10冊」の『バンド臨終図鑑』、『元アイドル!』が面白そう。後者は吉田豪ですから、切り取り方や掘り下げが楽しみ。インタビューされている人も同時代人のようで、杉浦幸とか久しぶりに聞きました。
「イヤミス」なる語は「本の雑誌」発だったのですね。2005年10月号の霜月蒼、杉江松恋、千街晶之の鼎談からだそうです。

ツボちゃんは『トーキョー・レコード』の紹介。1941年12月前後に逮捕、拷問された外国人による詳細な記録があることに驚きます。時節柄もっとブレイクしてもいい内容ですが、TV 局や雑誌社が忖度するとどうしても採り上げられない内容と思います。

SF大将は、都庁舎から出てきた自作チンポのそそり立つ巨大丹下健三が、安藤忠雄の渋谷駅を破壊する話。アイデアは最高なのに、長さも展開も中途半端なので、もう少し膨らませてほしかったな。

古幡瑞穂は POS の売上データ等から、年代による読書傾向の分岐点を探っていて、具体的には人はいつから佐伯泰英を読み始めるのか、なのですが、これがどうも60歳かららしい。いつまでも『君の膵臓をたべたい』や『小説 君の名は。』や『リバース』を読んでいたいのですが、そのうちこの嗜好自体変わるのかもしれませんね。

大森望と北上次郎は文庫解説対談。1冊の解説のために過去作品をすべて読み直したり、読書メーターで単行本刊行時の感想を読み、それに応えていくそうです。凄い。コレだけやってるんだからけち臭いこと言わないで電子書籍化する際に原稿料払ってあげてくださいよ > 出版社
なお私は解説自体が、今、読み終えたばかりの小説に、いきなり「解答」が出てくるみたいで苦手で、しばらく時間を空けてから読むようにしています。

歩いて編集部に集まったんじゃないかと思われるご近所さん、丸善と三省堂の文庫担当の対談はカヴァーを含む仕掛けの重要性を訴える内容。しかも『君の膵臓をたべたい』への建設的なコメントとかよくファンの気持ちが分かっているなぁ、と思います。これなら単行本を持っている人でも買いそうですもん。

リストを見ていて気がついたのが三省堂だけで売れている蒼月海里という作家。『幻想古書店で珈琲を』シリーズ、『幽落町おばけ駄菓子屋』シリーズってので人気のようです。ラノベ、なんだろうなあ。なんで丸善だと売れてないの? 謎は尽きない。
同様に全然知らないのが Bリーグに登場するスターツ出版の沖田円。文庫の35%のタイトルが「きみ」か「君」ってのも凄いな。ラノベなんだろうけど。

そんな膨大なラノベから有名シリーズ物や大家を外して、「ラノベ素人、小説玄人」向けに紹介したのがタニグチリウイチ。基本的な所から解説した上で、最近の話題や流行までカバーする素晴らしいガイドになっています。1位の『スーパーカブ』はカバーイラストも良いな。あとはSF寄りの『オリンポスの郵便ポスト』や『白翼のポラリス』とか。カクヨム、小説家になろう等が他業種の流入を促した結果、お仕事小説が増えたっぽいのも面白い。

表紙のイラストはこれまでの小汚いものから一新。二人の邪魔しない距離感がいいですね。

 

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