秒速5センチメートル

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秒速5センチメートル

監督、脚本: 新海誠
出演: 水橋研二、近藤好美、尾上綾華、花村怜美、水野理紗、寺崎裕香
※ 数本まとめて観た全体の流れはこちら

「春琴抄」

一人称の柔らかな語りと桜の美しい描写に、冒頭からいきなり世界に引き込まれます。幼い2人の微笑ましい関係が描かれ、引っ越した遠くの彼女に会いに行くという典型的なドラマの中、雪が降り始めます。

明確な悪意をもって進む時間。立って待っていたからといって電車が進み始めるわけでもないのに座っていられない焦り。同時にぶり返す、自分の幼さのために彼女を思いやれなかった悲しい記憶。空腹感と、一瞬彼女から思いをそらした瞬間に手から飛び去る手紙に流す悔しさへの涙。どうか待っていないでほしいと本気で願いながらも、先に進まずにはいられない衝動。

貴樹の痛さや心細さがダイレクトに伝わります。そして肉体的にも精神的にも疲れ果てた末に到着した駅で彼女を見た瞬間の驚きと嬉しさと愛情と、そして彼女の涙やお弁当と、キス。二人の幸せな今後と、若干のドラマを想像しながらの翌日。

これが隣町ならこのまま進行したはずの恋愛なのに、出会えてしまったことで結果的に横たわる距離感を心理的に更に遠いものにしてしまいます。物理的にも絶望的に遠い種子島への引っ越しの前に、二人は暖かな自室で書いた手紙、そこには「好きです」と、「また会いましょう」と、書いてあったに違いない手紙、を、キスの後、微妙に変わってしまった関係の後では出せません。

その後、何度も郵便受けを覗いたり、ポストの前や携帯メールの送信ボタンの前で躊躇う二人を想像すると、これを書いている今も泣きそうになります。

「コスモナウト」

第2章、時間が経過していることに驚きます。

雪の栃木の究極にありながら、不思議と画面からは暑さや湿気が感じられず、一方で無造作に日焼けした人物は明らかに南方の島のそれで、ロケットの打ち上げや宇宙の幻想的なシーンと相まり、別世界観が強まります。印象的な幕間劇。

距離だけでなく時間までもが空いてしまった中で、明里への想いを募らせる貴樹の姿は痛々し過ぎます。花苗が何気なくつぶやいた「時速5キロメートル」という言葉にとっさに反応する姿に、それまで何度も過去を再生してきたことを思えば、さらに。

そしてどんなに想っても、愛した貴樹の視線は遥か銀河系の彼方の誰かしか見ておらず、そのことを知りながら愛さずにいられない花苗の直線的な気持ち。つらい…。

「秒速5センチメートル」

すれ違う明里に似た女性、振り返った先に小田急線が横切る。当然観客は電車が通過した後にこちらを見ている明里を期待しますが、その後のシーンでは自分の殻の中の篭り続ける貴樹の姿が描かれ、自然と不安が募ります。何度も除く郵便受け、種子島での別れ、流れる時間、訪れる数々の出会い…。

悪い予想をしていたとは言え、踏切の向こうに誰も居ないことが分かるや瞬時に踵を返す姿は想像できませんでした。甘い予想を遥かに超えた絶望と受容と未来。

13歳の会合以来、互いを想いながらも迷い続け、あと一歩が踏み出せなかった自分たちの帰結には、ハッピーエンドを空想する隙さえなく、仮に一瞬の期待があったとしてもそれは瞬時に打ち砕かれ、かつ、即座に受け入れるしかないのでしょうか。夢の中では遥かな宇宙の深淵を二人で覗きながら微笑むことができたのに。

追記

固有名詞を調べるために wikipedia をちらっと見たら「同じ横断歩道」という言葉が目に飛び込んできて感動しています。どれだけドラマが込められていて、どれだけ読み取れたのだろう、私?

P.S. 買いました。

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