本の雑誌 2017年2月号 – 匿名だからできることと責任

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本の雑誌 2017年2月号 (No.404) / 本の雑誌社 / 667円 + 税
表紙デザイン 和田誠 / 表紙イラスト 沢野ひとし

「本棚が見たい!」の川出正樹の棚はとにかく綺麗。浜本編集発行人も書いているようにジャンルのまとまりの良さを最大限引き出している棚です。天井までの作り付けの棚に番号順に並べるなんて想像するだけでニコニコするシチュエーションです。

特集は「匿名なんて怖くない!?」。これまで私は匿名コラムに何らかの意味があると思っていませんでした。よくあるネットの主張のようですが、欧米のような署名記事を増やすことで責任のある記事が増え、いい加減なゴミは減る、と。
しかしこれは大いなる誤解、というか、甘ちゃんの議論だったようですね。
たとえば大江健三郎は「週刊朝日」でけなされ、朝日幹部に激しく抗議したらしいのですが、何だかねぇ、ですよね。大江健三郎のような暴力とは程遠い(ように見える)知的権威に、そのような怒り方をされれば、ますます実名で批評できなくなります。これは政権批判も同様。「週刊誌匿名記者座談会」では「本の雑誌」とは思えないハイテンションでの政権批判をしていますが、匿名でしか書けない日本固有の事情は確実にありそうです。

わざわざ「誰が書いたか詮索しないように!」と書いてある匿名コラム特集は、詮索して欲しいのだと読みました。「め」は目黒考二、「P」は編集松村(吉田伸子?)、「揚三」は「今月書いた人」でも「桃園」を紹介しているのでツボちゃん。うーん、おかしいな、そうすると「生きざま」に突っ込んでいる「悶」はツボちゃんじゃないのか…。「オ」は大森望。にしては文が強いので椎名誠でどうか?
読者のはがきでは、内澤旬子の匿名ファッションチェックが読みたいとありました。読みたくないなぁ、自分がチェックされているみたいで…。

で、その内澤旬子は営業杉江のスーツとジャケット。シズル感の凄い文章です。今思いつきましたが巻頭扉のカラー写真で見たいな、きっとないだろうけど。

宮下奈都は本屋大賞でもらった図書カード10万円がもったいなくて使えないので日常の買い物での10万円分のリスト。いい人に大賞が行きました。そう言えば『羊と鋼の森』は映画化されるそうですよ。

新刊では『横浜駅SF』。一発落ちと思っていたので高評価とロードノベル形式に驚きました。北上次郎の3冊『Good old boys』『春に散る』『漂う子』はどれも良さそう。

穂村弘は自分の作品に「シュールですね」とは言わないでとのこと。最近あまり聞きませんが彼の場合はよくあるのでしょうか…。

宮里潤が退職するためおじさん三人組は解散。編集発行人以上に偏った経歴とサブカル度に期待していたのに残念でした。

入江敦彦の連載を読んでいると、何故「一見さんお断りの排他的な街」から文化や企業の先端が生まれ、異文化を受け入れるのか少しだけ分かった気になります。「分かった」と断言すると怒られそうだから「分かった気」ですが。はっぴえんども京都だけがフツーに受け入れてくれたといってなかったっけか(未確認)。

柳下毅一郎は本誌で何度目かのクラカワー『ミズーラ』。重要なテーマだし良い本なのでしょうし、筆者も悪くありません。でもさすがにダブリすぎではないでしょうか、編集部。

鏡明はスペクターのプロデュース作品「DEATH OF A LADIES’ MAN」「ロックン・ロール」の紹介と自分の仕事との関連。有名な話らしいです。

秋葉直哉はいつものように複数の本の一瞬のイメージを繊細に折り合わせてくれます。そんな中でも宮沢賢治は格別に好きそう。

新保博久は笹沢左保の10冊だがなんか原稿を書くのに苦労しているように感じました。作品数が多いからなのか、傑出した作品がないからなのか。

付録の助っ人の本がどれも同じくらいの目線で面白そうでした。年末年始の「私の3冊」は、読書のプロが選ぶだけあって「普通」の本の上を行く読み手を選ぶ本が並んでいますが、ここはその「普通」の本が並んでいます。本誌でも紹介すればいいのに。

 

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