本の雑誌 2017年1月号 – 若林踏と栗下直也の書評が素晴らしい。

投稿日: カテゴリー

本の雑誌 2017年1月号 (No.403) / 本の雑誌社 / 778円 + 税
表紙デザイン 和田誠 / 表紙イラスト 沢野ひとし

今月号は執筆陣入れ替えの号ですが、冒頭のカラーグラビア「本棚が見たい!」は今年も続くようです。最初に開いたページが本屋の店頭風景というのはとても嬉しい … と書きながら若干後ろめたいのは、今月号の右ページの片岡鶴太郎が目立ちすぎるから。

さて嶋浩一郎は「床はいらないから壁は全部ください」と家人と交渉して作り付けた本棚を披露。玄関下駄箱上からに3階までそびえ立ってて、かっこよすぎます。今月号のダブリはその嶋が代表を努める「博報堂ケトル」で、原カントくんが所属。サイトがかっこいいです。原カントくんは「VHSビデオ専門映画誌「南海」」vol.3を紹介。特集が「続編」。あの VHS レンタルビデオにあったアヤシー奴らですね、分かります! イタリア映画の「エイリアン2」とかだ!

特集は恒例「本の雑誌が選ぶ2016年度ベスト10」。
1位は柚月裕子『慈雨』、2位は塩田武士『罪の声』。相変わらずちょっとマイナーな、でも面白そうなところを突いた「本の雑誌」らしい1位と2位です。ちなみに3位は割りと普通な『〆切本』。柚月裕子は『孤独の血』に続けてなので、そろそろ大ブレークしそうですね。個人的には10位の本橋伸宏『全裸監督 村西とおる伝』の「人生、死んでしまいたいときには下を見ろ! おれがいる。」に興味を引かれました。

SFベストは『ハリー・オーガスト、15回目の人生』。初出時は『リプレイ』の亜流として無視しましたが、こうなると興味です。『ロボット・イン・ザ・ガーデン』『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』はチェック済み。追加するなら『代体』が古典SFっぽくて楽しそう。一方で『僕が愛したすべての君へ』『君を愛した一人の僕へ』はひとしきり褒めたあとで「ただ、どうしてラブ・ストーリーなのか。何だかもったいないように思えた。」と。えぇ。だからいいのではと思うのだが、さて。

ミステリーベストは『傷だらけのカミーユ』。もうルメートルはいいじゃん…。とも思いますが、イーガンと同様、敢えて選ぶだけの作品なのでしょう。。10位『現代詩人探偵』は10年間の詩人達の人生の絡み合い。新刊『刑事ファビアン・リスク 顔のない男』と同様に展開が楽しみです。

ノンフィクションは栗下直也。紹介が本当に上手。それまでのページで既出の本ばかりなのに、彼の紹介文を呼んで「え、こんな面白そうだったの!?」と何度も驚かされました。そしてトップは、隠し玉的な『一投に賭ける』。誰も紹介してないのを1位にもってくるかっこよさよ、… と思ってたら浜本さんが挙げていました。うーん、ますます面白そうだ。

 

新刊めったくたガイドは執筆陣を入れ替えました。入れ替えても文体が酷似していて既視感が半端ない。初期の「三角窓口」がすべて椎名誠風だったようなものか。

その中では若林踏の『黒涙』に対する書評が素晴らしい。異分子としてしか存在できない男の物語を「感情の溜め込みと発散を巧く操るエンターテインメント」とまとめます。途中の鬱屈とラストのカタルシスの配分をうまく言語化したなぁ、と驚きました。それにしてもこの配分の悪い作品が多いことよ。

意外だったのが亀和田武『60年代ポップ少年』。ジャンルを超えて活躍されている方ですが SF もポップ文化の柱の1つだったそうです。

穂村弘の「本屋にソファー」の強烈な違和感、に激しくうなづきました。と同時に今でも蔦屋書店の類いは許せません。買うための比較ならともかく、コーヒー片手に無料読みなんて、やっぱり理解できません。

「私の3冊」を読んでいて気になったのは『大きな鳥にさわれないよう』と『奇妙な孤島の物語 私が行ったことのない、生涯行くこともないだろう50の島』。前者は服部文祥と同じ「川上弘美がディストピア?」という疑問を激しく後悔させてくれそうで、後者は副題がいい。そして全体を通してだと『一瞬の雲の切れ間に』。これはタイトルもいいし、何より北上次郎の解説がうまい。

おじさん三人組の穴埋め感が半端ないんだが、何なんだ、これは。「カストリ書房」店長の語りがつまらなかったのだろうか? 平松洋子が行けば、もっときちんとまとめると思うよ。

入江敦彦はリアルな京都を舞台にした名作として瀬戸内晴美を挙げています。「ストーリーが京都で展開する必然性がプロットに組み込まれている」って、凄いことですよね。ただ読んで気づくのか、という問題は残りそうだが。

「着せ替えの手帖」でついにスーツ一式の値段が明かされました。靴が5万円、トータルで34万円 …。金屏風の前で吉永小百合と並ぶための価格とは言え、確かに顔が強張ります。でもこれまでの熱い熱い語り、『漂うままに島に着き』と180度異なる熱量での説明に、そんなもんなんだろうなと納得する自分もいます。栗原類じゃないけど、ちゃんとしたもんを選ぶべきだよなぁと。

鎌倉幸子がこの位置で締切について詫びています。先月号でも思いましたが、執筆者の半分以上が締切を守っていないなんて…。雑誌ってそんなもんなのか。ちなみに彩古さんと掲載ページが逆。直前で入れ替えたのかな?

その並びに関連しますが、円城塔の隣は風野春樹が良かったな、理系ネタで固めてて。芥川賞作家なのに「Elixir を触ろうかなと思っていたら Python」ですからね。でも代わりに秋葉直哉がこの位置に。どこに来ても一瞬で自分の世界に引き込みます。その後の風野春樹の「天才に囲まれた女性の儚い死」も上手い。

ツボちゃんはディランのノーベル賞受賞をスルー。なんで?

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です