本の雑誌 2016年8月号 – 追悼、吉野朔実

本の雑誌 2016年8月号 (No.398) / 本の雑誌社 / 778円 + 税
表紙デザイン 和田誠 / 表紙イラスト 沢野ひとし

特集は「さようなら、吉野朔実」。

先月号で浜本さんが「次号の追悼特集は私なりの恩返しのつもりです。」と予告していました。本来であれば本号は「上半期ベスト1」の号なのですがそちらの特集は大幅にページを削減し、また通常連載の「本棚が見たい!」のカラーグラビアや目次ページまで移動しての堂々51ページの追悼号。ファン必携。

冒頭からいきなり未公開を中心のカラーイラストや「ぶ~け」の表紙や単行本の全カバーとか、これまで本の雑誌でしか知らなかった私には軽くショック。繊細で華やか。白黒のあっさりした絵ばかりを見ていたので意外でした。これは1ページに2冊の分量で詳説された各作品の内容も同様で、吉野朔実劇場とは別の対象と距離感のある視点を感じました。だからこそ逆に小さな幸せが引き立つのかもしれません。続くこれまで連載に絵として登場してきた主要メンバーのコメントやアシスタントの座談会も人柄をしのばせる良い企画でした。

これらを支える編集が素晴らしい。締め切りまでの時間はそうなかったはずですが大勢の原稿を集めた上に、特集のカットはすべて吉野朔実本人のもの。これは相当な時間を要します。また作品紹介ではさり気なく上の方に年号が入ってたりします。浜本さんや本の雑誌の愛情が詰まっています。

そうそう入江敦彦と吉野朔実がここまで深い関係とは知りませんでした。結局、彼の連載が始まったのも彼女の影響かもしれませんね。本当に「本の雑誌」を支えた方でした。ご冥福をお祈りします。
都甲幸治のおすすめ『ワンダーボーイ』。超能力を獲得した少年というラノベ展開が、舞台を韓国の軍事政権下におくだけで途端に(きっと)思い出したくない過去と直結する力技は興味を持ちました。また伊藤比呂美『ラニャーニャ』の太陽の表現。私もアメリカで太陽や空気の強さの差を感じました。光線は激しいのに日本的な暑さのエネルギーが抜けている感じ。日本語の限界を感じつつも、その表現を試みるのが作家の性と思います。

大森望は牧眞司の『Just in SF』をして「ミリタリーものなど娯楽SFには冷淡」とのこと。「など」に何が含まれるのかは分かりませんが、ミリタリーSF に限って言えば私も少し否定的です。ハインラインのジュブナイルや『老人と宇宙』とか大好きなんですが、『彷徨える艦隊 外伝3 勝利を導く剣』が読みたいか? と問われればうーん。偏見ですが平板に見えるんですよね。キャラクターもストーリーも。

関連して堀井慶一郎は毎度のくだらない文章ですが、今回はどんなに抑えても筒井康隆の好きさ度合いが下から出てきてしまい、くだらなさを通し切れていない感じ。好きなんですよね。これは先月号の大森望も同じか。で、先ほどの牧眞司の姿勢と共通するのが星新一を当時の高校生が軽く見る感じ。よく分かりますし、私の場合は今も完全には抜けきっていません。読んでみて面白かったのにねぇ。
ちなみに今号で大森望、鏡明、若島正の3人が触れるのが国書刊行会<ドーキー・アーカイヴ>。ちょっと気になる。

円堂都司昭のお薦めはどれもつらそう。『悪母』のような直接的な作品もですが、『難民調査官』とか重そうです。

『祖父江慎+コズフィッシュ』。興味だけで手を出せる値段ではありませんが(8800円)、見てみたいですね。

西村賢太の連載は Web に移動し、次回からは別エッセイがスタートするらしい。これまでが素晴らしい内容だっただけにタイトルの「一私小説書きの日乗」に安易なエッセイにならないことを願います。

第2特集「2016年上半期ベスト1」は目黒、浜本、杉江の鼎談。作家の新しい試みを書評側から高く評価し、さらに提言まで行うという素晴らしい内容。こうした提言の下地には作家一人ひとりのこれまでの作品や努力を追いかけてきた自負があるからできることで「本の雑誌」ならではの姿勢です。素晴らしい。
ところで以前から思っていたのですが目黒さんの発言はおすすめガイドの今月、先月と内容がかぶることが多く、今回はページ割も悪く数ページ前の『半席』の内容が繰り返されてしまいます。もう少し工夫があってもよいのではないでしょうか?

内澤旬子はスーツ妄想という名の推理モノ。この後で鴨田さんが全部ひっくり返したらまんまミステリーです。やって欲しい企画です。しかしますますスーツ着て(あるいはどんな洋服着てでも)内澤旬子には会いたくないな…。

服部文祥の紹介する『ピダハン』を最初に「本の雑誌」で取り上げたのは吉野朔実じゃないかな。

円城塔はオライリーの『コンピュータシステムの理論と実装』。「コンピュータの中で、論理素子をシミュレートするという形で」「コンピュータを構成し、その上でテトリスを実行するところまで」。そんな実践的な本と思わず素通りしていました。Arduino が一区切り付いたら読みます。

atachibana

立花明 - 東京都在住、IT系企業勤務。 WordPress Document Team メンバー。 連絡先はこちら

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