本の雑誌 2015年6月号 – 「地元の本屋さんを大切にしてあげてください」

本の雑誌 2015年6月号 (No.384) / 本の雑誌社 / 926円 + 税
表紙デザイン 和田誠 / 表紙イラスト 沢野ひとし

祝創刊40周年!

本の雑誌も廃刊しかけたことがあり、以来、私は本屋大賞本や文庫王国などは直販で買うようにしています。せめても利益が多いほうがいいかな、と思ってのことです。
三角窓口によれば、そんな同じ気持を持った読者に対する営業担当の言葉が「地元の本屋さんを大切にしてあげてください」だったそうです。泣きました。本屋あっての本の雑誌。これからもよろしく。

 

6月の本棚は書店も目黒、沢野、木村、椎名の4人衆もフツー。これまでが異常な本棚ばかりなので比べると正直寂しいですね。冒頭の振り返りエッセイもフツー。椎名誠と同じことを言っているのですが鏡明の総括の方が説得力がありました。すなわち他誌と違い「主観的なものを中心にしようと」したこと、「変化すべきことと、変化してはならないことがあって」「ちゃんと変化してきた」。

 

特集は「本の雑誌が選ぶ40年の400冊」。編集部 + 9人の選者がこの1976年から2015年に出版された本からジャンル別に40冊を選ぶ趣向。

オールジャンルの編集部が選ぶ 1位は「ビブリア古書堂の事件手帖」。おぉ、すごい。そして『猫を抱いて象と泳ぐ』『オシムの言葉』『水滸伝』『笹の舟で海をわたる』と続きます。過去の常連や超有名作は意図的に除外していますが、それでもこうした順番で堂々と並べられることこそが40年の信頼と実績。これは北上次郎エンターテイメントでもっと顕著になります。リストを眺めていると、彼や本の雑誌が「発見」した作品や作家に対する影響度の大きさが分かりますね。本号のめったくたガイドでは、はらだみずきの新しいステージへの到達を喜びます。この紹介がうまいんだわ。北方謙三がどの写真も嬉しそうで、読んでいるこちらも楽しいインタビューになっているのも、ただ一人選ばれたことはもちろんですが、「本の雑誌」の表彰だから、ですよね。ほんといい笑顔。

 

都甲幸治は海外小説を選出するに際して訳者の紹介を中心に据えます。挙げておくと柴田元幸、村上春樹、岸本佐知子、岩本正恵、くぼたのぞみ、藤本和子、木村榮一、鼓直、篠田一士。訳業だけでなく紹介者、編者としての面に光を与えたことも本の雑誌の功績ですよね。特に柴田、岸本の信頼度は絶大です。ところで村上春樹の訳業に疑問を感じるのは青山南のせい。本号でもやんわり批判しています。いつかまとまったページを上げて欲しいですね > 編集部。村上春樹は珍しく将来の執筆予定など難しいアンケートにも答えてくれているので批判的に取り上げるのは難しいかもしれませんが、大丈夫、ムラカミさんはそんなに小さい人ではないですよ。

 

鏡明はSFの40本。個人的と言いつつ素晴らしい俯瞰になっていることはいつもどおり。「SF的連続話」よりは若干丁寧で、読者を意識してくれます。池上冬樹もいろいろな縛りを取り払い、好みであろうビリビリした緊張感のある作品が並びますが、中にポロッと『少年時代』があるのはファンとしては嬉しいところ。

 

他の椎名誠や円城塔のリストを眺めていると、読者座談会にある「(読んでいれば)得意じゃないジャンルも詳しくなる」は実感します。ところで座談会で「本の雑誌をどこから読むか」という話題が出てきますが私は基本的に最初のページから最後のページまで1ページも飛ばさず愚直に読みます。最初にリアルタイムで買った55号からずっとそう。こんな薄い雑誌なんだから全部読めばいいのに…。ちなみに私が最初に本の雑誌で出会ったのは愛読していた「ダ・カーポ」の「こんな雑誌が理想的」に対する批判記事を生協で目に止めてから。以来、定期購読を続け、全ページ読んでます。隠れた目標は全冊紹介です。

 

でも、中だるみはあった気がしますね。
だから浜本編集発行人になったと思っています。ちなみに内澤旬子は例のお洒落おじさんが再登場し、浜本さんはブルックスブラザーズのスーツになりそう。そんは浜本さんが最初に登場するのは30号です。

本の雑誌30号 – atachibana’s blogatachibana.hatenablog.jp

「私の「本の雑誌」体験!」は、いい話ばかりですが、読者の年齢は…。思い出話だから仕方ない気もしますが、ならばと三角窓口で、常連の中に混じって一番若い方は35歳。初期の号なら最高齢です。私もいい年で他人事でないのだけど、大学生協に「本の雑誌」は置いていないのでしょうか? みんな Kindle なの?

 

平松洋子が突然そばの連載。書物と関連してではなく、純粋に味と店の紹介。これが面白い。2日間の修行やタクシー運転手等の小さなネタもいいけど、そばの紹介がとにかく美味しそう。これは良いエッセイになります。第一回は秋葉原の立ち食いそば店「川一」。

驚いたと言えば服部文祥が再登場で連載化。サバイバル登山に影響を与えた書物らしいですが、初回はあまり驚きのない安い卵の話。これからに期待。

大森望によれば『デューン 砂の惑星』は酒井昭伸で新訳されるそうです。やっぱりそうだよなぁ…。半年前のこちらの記事をどうぞ。

いま二十代のSF翻訳志望者は次に何をすべきか? – atachibana’s blogatachibana.hatenablog.jp

「サイバーパンク二世による新たなポストサイバーパンクSF」のデビュー長編で俄然興味は『母になる、石の礫で』。倉本さおりの紹介する『イザベルに ある曼荼羅』。これだけ言われて『レクイエム』から読まない人はいないでしょう。

 

青山南の「なんでいまどきタイピスト!?」と円城塔の「新しい思考の道具」は好きなエッセイ。マーケティング主導のビッグデータやらアナリシスには辟易しているので後者は特に。
若島正は1970年代の幻想文学ファンの道として紀田順一郎、荒俣宏、種村季弘、澁澤龍彦と挙げた上で寺山修司のエッセイに触れます。覚えておこう。いっつもつまらない堀井慶一郎はSFだから(?) 面白く読みました。過去の超ベストを読んで面白いと言っているだけですが、1950年代の価値観とか世界観とか確実に時代を経て別の何かに変化し、たとえば明治時代の日本文学を読むような、ある断絶感が出てきましたよね。

 

沢田康彦は椎名誠の10冊。古い友人(上の30号にも出てくる)が真摯に取り組んでいます。「つきあい悪く「すぐに帰る」椎名誠」という面は何となく伺えましたが、改めて書かれるとへぇ、そうなんだ、と思います。昭和軽薄体や怪しい探検隊のレッテルを剥がすのは難しいし、本人もあまり剥がす気がない(ように見える)ので、もうこのままなんでしょう。

 

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