シビュラの目

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シビュラの目―ディック作品集 (ハヤカワ文庫SF)
シビュラの目 / フィリップ・K・ディック / 浅倉久志、大森望、冬川亘訳 / ハヤカワ文庫SF / 777円 (740円)
The Eye of the Sibyl and others / Philip K. Dick
カバーイラスト 野中昇 / カバーデザイン ハヤカワ・デザイン

日本オリジナルの短編集。政治を巡る話しを中心に集めている。残念ながらディックの短編集としては、かなりダメな部類である。

「待機員」異星人の攻撃により破壊されたコンピュータ大統領。バックアップ要員である人間の待機員が、久方ぶりの大統領役を勤め、対抗勢力共々に権力の座の味を覚える。
選挙直前でのコンピュータの介入には、対立候補でニュースクラウン、ジム・ブリスキンの表情に「蝿の王」を見ました。それに比する大統領マックス・フィッシャーとその従兄弟で司法長官レオンのチーズバーガーを食べながらのグダグダした会話もいい感じ。ただオチ的にはまぁ、そんな話しもありかね程度。「輪ゴムのボールをつくれよ」には大笑いした。

「ラグランド・パークをどうする」その後日譚的な話し。シンガーソングライター、ラグランド・パークが作る歌が現実となることを知ったTVネットワークCULTUREのオーナー、セバスチャン・ハダは、フィッシャー大統領の命により投獄されたジム・ブリスキン釈放の歌を作らせる。その次にコンピュータ復活の歌を作り、フィッシャー大統領を追い落とすことを計画するが、それ以前に自分自身の死をネタに歌を作ったため、殺される。
これまた、背景にはボブ・ディランだの、ベトナム戦争だのがあるんだろうなぁ程度でどうということのない話し。短編が連作になっていることに少し驚いた。

「宇宙の死者」死者を急速冷凍し、その死後も限られた時間の中で生者と通信できる時代。富豪ルイ・セラピスの死後を託されたジョニー・ベアフットは、冷凍されたルイと直接交信できないことを知る。同じ時期に太陽系から1光週の距離から、一方的なルイのメッセージが届く。
全編ドタバタしていて収まりが悪い。ルイからのメッセージと思わせておいて、実は大統領を狙うガムとルイの孫娘キャシーの策略というのは面白い。実行はまったく無理な気がするけど。

「聖なる争い」政府の軍事用コンピュータが、カリフォルニアに住むバブルガム自販機オーナーを脅威とみなし総攻撃をかけるよう指示する。修理担当の技師スタフォードはその予測が正しいものなのか、間違いなのか解析を依頼される。
脅威の対象がガムのおまけのコンピュータ、それが無数にあるので脅威とみなしはじめたというくだりはちょっと面白い。このまま突き進めた方がよかったんじゃないのかなぁ、このオチより。

「カンタータ百四十番」人工増加に悩む時代に、大統領候補ブリスキンは、惑星植民化計画、次に「どこでもドア」的装置スカットラーのバグから生じた過去の時代への植民等を訴える。
このメインストーリー以外にもさまざまな登場人物がさまざまに絡んでいくのだけど、どうにも主人公ブリスキンの個性が感じられない。よっぽど「待機員」の方がまし。

「シビュラの目」ローマ帝国のシビュラ(巫女)が、予言を不死人たちから得ているところを見た語り手は、そのまま未来に落ち込みSF作家の人生を演じつつ、冬の時代を終わらせようとする不死人の活動を知る。
作品というより、戯言。「911」5周年行事に盛り上がっているタイミングで読むと何かの皮肉のよう。

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