もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら / 岩崎夏海 / ダイヤモンド社 / 円
イラスト ゆきうさぎ / カバー背景 益城貴昌(Bamboo) / 装丁 萩原弦一郎(デジカル)
中身はタイトル通りに高校野球部の女子マネージャーが、ドラッカーの『マネジメント』に書かれた経営法を高校野球に適用する、正真正銘のビジネス書。カバーのイラストや「女子マネージャー」という語からいわゆるライトノベルを予想していたのですが恋愛要素や超常現象や学園要素は限りなくゼロ。主人公らの容姿や過程生活も全く触れられず、ひたすら『マネジメント』の適用例が紹介されていきます。容姿をイラストに任せるのはライトノベルも同様ですが、ここまで徹底されると筆者には最初からその意識はなかったのは明らか。その意味では後付けでこのカバーを発注し、表紙をデザインした編集者が素晴らしい。少なくとも私は電車の広告で主人公の絵と背景の空の青のグラデーションに興味を惹かれましたから。小説的にはみなみの葛藤や雪乃の件など安易すぎる部分が目につきますが、ビジネス書と考えればそれも許せます。少なくとも『マネジメント』は読みたくなりました。最近の帯の「『もしドラ』のみなみが 読んでいるのは、この本です!」も非常に有効だと思います。
もともとドラッカーの本は一見素晴らしそうなことが延々書かれ読書中は心を動かされるのですが、いざ実地に適用とするとこれが難しい。具体的に何をすれば良いのかがちっとも分からないのです。
この本の素晴らしいところは、そうした曖昧な記述で満ち溢れたドラッカー本に対し、野球というあまりに具象な切り口で一つ一つ真摯に答えているところです。顧客とは何か、イノベーションとは何か、という部分に著者はキチンと回答を出してきているのです。これだけでも読む価値があるでしょう。
興味深いのは経過よりも結果を重視する、というビジネスでは一番重要なテーマの結論に対する判断を持ち越している所。結果を出せなかった雪乃の最後の頑張りは本当に意味がなかったのか? という疑問に対する明確な答えはここにはありません。もっと言えば『マネジメント』にて明確に「意味が無い」と書かれている事象であるにも関わらず、ドラッカー信奉者のみなみが信じません。徹頭徹尾ビジネス書として構成されている中で唯一、小説的な部分であり、著者の優しさを見る瞬間です。