本の雑誌 2015年1月号 (No.379) 特大湯たんぽ年明け号 / 本の雑誌社 / 778円 + 税
表紙デザイン 和田誠 / 表紙イラスト 沢野ひとし
特集は「本の雑誌が選ぶ2014年度ベスト10」。もう書いてもいいでしょうから並べると
- 笹の舟で海をわたる
- 殺人犯はそこにいる
- 月日の残像
角田光代ぶっちぎりの感があります。個人的に興味を惹かれたのは6位の『トワイライト・シャッフル』。「ミステリーベスト10」「現代小説ベスト10」にもランクインする乙川優三郎の作品。趣向としては『笹の舟で海をわたる』に通じるものがあるようですね。そして北上次郎も推す『イノセント・デイズ』。死刑執行までの後半はページをめくる手が止まらなくなるの確実。書評だけでドキドキします。
ジャンル別ベスト10では、栗下直也「ノンフィクション ベスト10」が素晴らしい。要所要所で2014年の出来事を振り返りながら 2位『石の虚塔』から10位まで、各作品の読みどころを簡潔で流れるような文書で確実に伝えていき(『石の虚塔』に対しては戸川安宣のコメントも泣かせる)、最後に1位『映画の奈落』。後追いのはずのノンフィクションが現実に進行した一本の映画をめぐる話し。当たり前過ぎるコメントだけど栗下直也の紹介はうまい!「HONZ」の連載も冴えてますし、今後も期待です。
鏡明「SFベスト10」は『火星の人』を抑えて「霧に橋を架ける」。書名でなく中編タイトル。「未知のものに対する恐れと憧れ」から1位という理由が良いです、まさにSF。ところで前半の SFが日常化した2014年というのはちょっとどうかと。かなり以前からSF的な要素は日常のお約束と化していると思うのですがね…。
「ミステリーベスト10」は鉄板のトップ3。「現代小説ベスト10」は本誌での連載時にも絶賛の『地図と領土』が1位。2位の『東京自叙伝』も変わっていて面白そう。佐久間文子は目利きだなぁと改めて思います(連載終了が残念)。そして、2014年は翻訳家東江一紀が亡くなった年。 9位と10位、そして次の荻原魚雷のエッセイ、『フラッシュ・ボーイズ』等の紹介が追悼します。
「私のベスト3」では、毎年、あまり本誌で興味を惹かなかった本が、複数人に取り上げられて、へぇ、となる場合も多いいのですが、今回は『初稿 山海評判記』『怪奇文学大山脈』がよさそうで、是非実際手にとってみたい。あと、マンガのエントリーが目につきます。3冊とも要チェック!になったのが岸本佐知子で『ファイナルガール』『殺人出産』『少女アリス スペシャル・エディション』。
ところで今月号から執筆陣と共に冒頭ページも変わり、カラーグラビアで書店と個人の「本棚が見たい」を毎月掲載(かどうかは待て次号だが、その場合定価はどうなる?)。
根岸さんの本棚、というか家全体が読書人の夢のような作り。それでいて「コレクターではない」から同じシリーズ本や作家がずらーっと場所を取るわけでなく好きな本だけが並ぶ格好。羨ましすぎます。ちなみに読者アンケートはがきのテーマは「今までに試してみた本の処分法」…。
そのメンバーが一部入れ替わった新刊めったくたガイドでは北上次郎の推薦作が目立ちました。『波の音が消えるまで』も良いけど、『伶也と』のエンディングからどんな話なのか、冒頭31歳の主人公が24歳のボーカルとの間に恋愛以外のどんな感情を持つのか気になります。
35年間不眠症だったことを告白してファンを驚かせた椎名誠が関連書として紹介するのが『眠れない一族』。発症すると確実に死ぬ不眠症の遺伝を背負う一家の話し。まるでSF小説のテーマのよう。
穂村弘は「みんなの気持ち」。うわぁ、あるわぁ、の連続。短歌って、こんな感想を書けばいいんだよね、という気持ちの刷り込み(「社会的な合意点」)が小学生の夏休みの宿題にも、老人の投稿にもあふれているという話。これはあれだよね、本当に心の底から湧き上がったおのではない、ということなんだよね。そんな人は無理やり短歌なんか作らなくていいのに…。
そういえば昔、松浦亜弥が「そろそろ、作詞したいんですよねぇ、わたし」と言ったのに対してユーミンが「書こうと思って書くのだったら、やめたら? 言いたくて、歌いたくて仕方がないことが溢れかえって、書くなと言われても書きたいときに作詞すればいいんだよ」とアドバイスしたのを思い出しました。ちなみに言葉は「誰かのそんな思いを歌い手としてきちんと届けるのも十分意味があることなんだよ」と続きます。素晴らしい。
新連載の日下潤一は装丁の話。専門用語を多用しながら具体的に装丁(特に宣伝の帯)にダメ出しをしていて小気味良い。題材は「CD化している」と祖父江慎が言うマンガの装幀から『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 1』。浅野いにおの装幀はどれもいいけど、著者がいいのか、編集者がいいのか。
小豆島のヤギの写真しかツイートしない内澤旬子もスーツネタになると筆に別人が降りてきたかのような軽やかさ。スピード感溢れる文章が心地良いし、何よりどんなスーツを選んだのか結果が気になります。直前に宮田珠巳の連載を置く編集の心配りもよし。
津野海太郎はポール・オースターとクッツェーの往復書簡『ヒア・アンド・ナウ』をいつもの老いの視点から。最後のヴォネガットとの対比が面白いなぁ。新しい老い。そういえば今年は岩田宏も亡くなったんだったな。
青山南は全米図書賞にからめて米国の出版物にしめる翻訳率は全体で3%、フィクションや詩に限ると0.7%という驚きの数字を紹介。あれ、でも、日本はどれくらいでしょう。最近は翻訳物も減っている気がするのだけど、出版点数全体が落ちていますからね、よく分かりません。
久田かおりは宮下奈都の紹介。こういうのいいよね。
入江敦彦は『もしドラ』。いつものようなハッとする驚きの視点がないのは何故だろう。突っ込みどころが分かりやす過ぎるからだろうか? 一番驚いたのは彼がマネジメントをやっていたという部分。ずっとエッセイストか小説家、その前は出版業? くらいに思っていたので、かつてサラリーマンをやってたなんてびっくり。と思って調べると多摩美卒で「MICHIKO LONDON」でした…。わぁ。
円城塔は『白と黒のとびら』、風野春樹は『バンヴァードの阿房宮』を紹介。どちらも安定の好エッセイ。特に前者ですが電子出版という新しい形態が出てきた今、もしかすると数学と小説の境界を軽く行き来する作品が出てくるかもと期待しています。
三角窓口で読者の杉岡泰さんが「本の雑誌のバックナンバー要りませんか?」と声をかけています。誰かもらってあげてください。ちなみに私は、以下の号を探しています :-)
1号から9号、17号、19号、20号、39号、53号。
あ、中場利一の「鬼花」がない。まさか残りは単行本で、とか!?