密約の地

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密約の地 / ジャック・ヒギンズ / 黒原敏行訳 / ハヤカワ文庫NV / 760円+税
カバーイラスト: 生頼範義 / カバーデザイン: ハヤカワ・デザイン
On Dangerous Ground by Jack Higgins 1994

終戦直前、毛沢東は英国からの支援の見返りとして香港に対する租借期限を100年延長する「重慶密約」にサインした。その写しを所持したキャンベル少佐は移動中に撃墜され、荷物と共に英国へ移送される。
1984年、キャンベルの部下だったタナーは死の間際に「重慶密約」の写しがキャンベルの生地ロッホ・ドゥ城にあることを明かす。これを知ったマフィアの一員モーガンは、義理の娘アスタと共にロッホ・ドゥ城にて「重慶密約」を捜索する。情報を得た英国情報機関ファーガスンもディロン、バーンスタイン警部と共に城に向かう。

前作以上に 007 感、それもフレミングの小説版でなくイオン・プロの映画版の感じが強まります。これでダニエル・クレイグ物のような、胃が痛くなるほどの緊張感が漲れば何も言いませんが、ここにあるにはロジャー・ムーアの後期作品のような代物。

オープニングの暗殺シーンなんて後半と何の関係もない、見せ場のためだけのシーケンスですし、致命傷もあっという間に完治し、その後、一度たりとて古傷が痛むことはありません。お互いでニコニコしながら食事したり、殴りあったりするところもブロフェルドとの戦いみたいですし、ボスであるファーガスンがちょっとした活躍したり、水中シーン、少林寺拳法での格闘シーン、空中シーンとそれぞれのスタンとチームへの気配りがあったり、中国、英国、イタリアとロケ旅行したりと、この感想を書いていてヒギンズは本当にボンド映画もどきを狙って書いた気がしてきました。そういう意味では、すべての女性にちょっかいを出しまくるあたりまで似ています。

最大の弱点はストーリーを転がすのに忙しく、個々のエピソードのタメが弱いこと。これでは盛り上がりようもありません。
アスタの裏設定は面白いものの、裏切られた時の驚きやロンドンでの付け足しシーンは機能しておらず、その後のショーンの悲しみもさっぱり伝わりません。城に向かう山登りのシーンなどは二人の関係やすれ違い感をうまく描けていただけに残念です。
やはりクライマックスはロッホ・ドゥ城での格闘であるべきだったと思うのですよね。祭りで駄馬を巡る会話等でヘクター・マンローとアイルランドにつながる短くも良いシーンを置けたのですから、単なる使い捨てキャラにせずディロン側に寝返って活躍するとか。

シリーズものとしてショーンの魅力がどんどん失せており、バーンスタイン警部にもツンデレ的な魅力はなく期待できません。次もあるのでしょうか?

関係ないけど生頼範義さんのカバーイラストはいい。

2023/6/17(日) 追記

次に読むべきジャック・ヒギンズ作品を調べていてブログへの転記もれを発見、この記事を過去日付で追加しました。あやうく凡作の『闇の天使』を2度読みするところだったので記録は大事ですね。

でも2019年が最後かぁ。あとハヤカワが2冊と角川文庫が数冊。単行本オンリーはパスかな。

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