本の雑誌 2023年12月号 – すずきたけし、V林田は良い連載でした

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本の雑誌 2023年12月号 (No.486) 拍子木くしゃみ号 / 本の雑誌社 / 700円 + 税
表紙デザイン クラフト・エヴィング商會 [吉田博美・吉田篤弘] / 表紙イラスト 沢野ひとし

特集: 出版と文房具

私は字を書くことは好きですし、私の書く丸文字も好きですが、文房具にさほどのこだわりはありません。フリクションは未使用、ジェットストリームは景品でもらって試したくらい(実際、書きやすかった)。サラサは0.5mm や 0.7mmの替芯を書い続ける程度に愛用。編集者神谷竜介の万年筆の話がよく、使ってみたくなりました。

デザイナー松本孝一の印刷の網点を見るルーペの話が深い。すべての工程がデジタル化されても最後の印刷物はアナログ。短いエッセイの中でその絶妙さを上手く伝えています。

書評家大塚真祐子は付箋の話がメインですが、書評を書くまでのプロセスと熱量に感心しました。初回の読書では読者と同じく物語を享受し、2回目以降は書評のために作品のテーマや骨組みになるところに付箋を貼りながら読む。絲山秋子『夢も見ずに眠った。』では、上手くまとまらずその一度貼った付箋を全部はがしたとか。書評への真剣さが伝わるエピソードです。当たり前だけどラクに書いている訳では無いのだなと改めて。

新刊

柿沼瑛子は書評より、クレイジーケンバンド愛のコメントの方が印象に残りました。
石川美南と大森望で重複したのが『最後の三角形 ジェフリー・フォード短編傑作選』。全14篇中、かぶった紹介が1つだけというバラエティの広さ。これは面白そうです。『リンカーン・ハイウェイ』もちょっと興味引くけど、ま、いいかな。
酒井貞道の国内ミステリーは格的に上の『でぃすぺる』よりも、アホな高校生の物語『午後のチャイムが鳴るまでは』にひかれました。
松井ゆかりはまさかの佐川恭一『ゼッタイ!芥川賞受賞宣言 新感覚文豪ゲームブック』。Twitterでは文中の「筆者の得難い資質」のみを切り取って紹介しましたが、実は下ネタや露悪的な記述を下品にしないってことってことだけど…。まぁいいか。
すずきたけしは今月号で連載終了。割りと自然科学寄り、工学寄りの紹介が多くて好きだだったので残念。今回は『創造論者 v.s. 無神論者 宗教と科学の百年戦争』。「創造論者にとって聖書が真実であることは科学的に無理があるのは自覚しているようで」という文章がおかしい。デザイン論って便利な方便。
宇田川拓也は北沢陶『をんごく』。選考委員からも読者からも評価が高いとなると気になります。
いつも淡々と紹介する山岸真が「強くお薦めの連作集」が、支倉凍砂『AIに、恋の仕方を聞いてみた』。

連載

3万円図書カード使い放題は真梨幸子。内容そのものよりも、断捨離を進めていくとモノを増やすのが怖くなり、物欲も減るというところがリアル。確か中崎タツヤも、生きる気力まで失っていたのでやりすぎるといけないのでしょう。
♪akiraの紹介するはディケンズ『クリスマス・キャロル』。これで、読んだ気になりました。
大槻ケンヂはグレイシー柔術の話から昔の思い出話へ。私が格闘技を観ていたのは1990年代半ばなのでちょっと後の話しか。今も当時もプロレスはちっとも詳しくないけど「紙のプロレス」は面白かったなぁ。若き日の吉田豪。
V林田も連載終了。「鉄道本」というニッチなジャンルにも関わらず、鉄オタだけの楽しみを一般人に教えてくれる抜群のリーダビリティ。最後は、中曽根康弘の国労つぶしのための国鉄分割民営化はウソとばっさり。ここらの曖昧さのない正確な姿勢も良かった。
円城塔は「帰れない子孫たち」として『母を失うこと 大西洋奴隷航路をたどる旅』。「国」に帰るつもりでも帰れない話。結局、奴隷はアフリカでも売られた人々、虐げられた人々、弱い人々だったという事実でこれは厳しい。

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