本の雑誌 2024年1月号 – 石川春菜の「未来」が良かった

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本の雑誌 2024年1月号 (No.487) 鏡餅てんてこ舞い号 / 本の雑誌社 / 850円 + 税
表紙デザイン クラフト・エヴィング商會 [吉田博美・吉田篤弘] / 表紙イラスト 沢野ひとし

特集: 本の雑誌が選ぶ2023年度ベスト10

『水車小屋のネネ』は別格として(それでも後半で佐久間文子、久田かおりが挙げている)、1位は『存在のすべてを』。池上冬樹のミステリーでも5位。ジャンル別でも選出されるのだからよほど良いのでしょう、気になります。ちなみに先の2人とかぶるのが4位『かたばみ』ですが、戦中戦後の家族小説はあまり気になりません。

読者のベストではラフカディオ・ハーンの創作だったという『雪女』。ラストが生き別れた母への思慕だなんて、読み方が変わります。『中国の死神』『九月と七月の姉妹』ここらもちょっと気になりました。『なんでそう着るの?』はおしゃれなお友達にお薦めしたい。

鏡明のSF1位は短編集『どれほど似ているか』。書かれているように、その背景の韓国文化が取り上げるテーマを理解せずにどれだけ面白がれるのか疑問。それは歴史改変モノ『文明交錯』も同じ。『回樹』は表題作を読んだとき、男性作家の描く妄想の百合と思って、あまり評価できなかったのだが。橋本輝幸も挙げている。

池上冬樹のミステリは堂々と『その昔、ハリウッドで』が1位で良かったと思います。熱い想いが伝わりましたし、映画も本当に面白かった。『俺が公園でペリカンにした話』は『ダイナー』の平山夢明。ハーパーBOOKSの同種の本も含めて、痛いのは嫌です。『卒業生には向かない真実』もハリー・ポッターみたく、どんどんシリアス度が増してる感じで手を出しづらい。『世界でいちばん透きとおった物語』はここに紹介されたネタを忘れてから読みたい。書きすぎ、紹介しすぎ。

「おすすめ文庫王国2024」の広告が「これで年末年始の読書計画はバタバタだ」が可笑しい。その直後の「わたしのベスト3」の「総勢32名が選んだお薦め本で2024年のスタートダッシュだ!」も威勢良くて丸。

高野秀行の『裏切りの王国』は『北関東の異界』等よりは読みたい。
岸本佐知子では『口訳 古事記』(久田かおりも)。町田康は私に合わない気がするのだが、古事記は面白そうだ。
山崎まどかの『グレート・サークル』は初出の紹介でも気になった作品。「全くだれることがない。」らしい。
クラフト・エヴィング商會の『きつね』は「「物語について語る物語」を、さらに物語として語る多重構造。それでいて、冒険小説の味わい」」とか。面白そうだ。
風間賢二と大森望が挙げた『サイエンス・フィクション大全』。本屋で眺めたときはピンとしなかったけどな。キム・スタンリー・ロビンスンの翻訳書を多分全部持っているし、もう一回見てみたい。ホラーには「ファイナルガール」というサブジャンルがあるらしい。「13日の金曜日」みたく最後に生き残る女性のこと。あと、スプラッターとは言わず、スラッシャーと言うみたい。
最初はふーんと思いながら流したものも何度か出てくると気になった『じゃむパンの日』は岸本佐知子と杉田比呂美。その杉田、そして佐久間文子が挙げる『五月 その他の短編』は岸本訳。「スコットランドの曇った空気、ひんやりした肌触り」が良さげ。
脊戸真由美の『夜のお店解剖図鑑』は興味を引いたが図面か。実物の本を見てみたい。梨ちゃんも挙げている『私のアルバイト放浪記』は漫画なのか。
高山羽根子は『あなたは月面に倒れている』。サイバーパンク的なかっこいいガジェットってなんだろう。鏡明も橋本輝幸も挙げてるな。
佐々木敦は『幽霊ホテルからの手紙』。中国のスティーヴン・キングで「テクスチュアル・ホラー」ってなんだろう。
末井昭の『母という呪縛 娘という牢獄』。事件のことは知ってたが、ノンフィクションがあるとは。
正木香子の『奇跡のフォント』は副題の「教科書が読めない子を知って – UD デジタル教科書体開発物語」でちょっと興味。
橋本輝幸は『幽玄F』。三島由紀夫作品を参照した冒険小説ってなんだ。佐藤究は『テスカトリポカ』も気になってるんだよな。
小森収の3冊はどれも良さげ。『日本語の発音はどう変わって来たか』『人類の知らない言葉』『キリスト教の本質』。
白石朗の挙げる新世代ホラーの収穫『ニードレス通りの果ての夢』と選外『ブラッド・クルーズ』。
佐久間文子の現代文学では『トラスト』『人類の深奥に秘められた記憶』はどっちも重層で良さげ。『ピュウ』もいい。訳者が『トラスト』と同じ井上里というのがポイントか。
栗下直也のノンフィクションでは『依存症と人類』でのアルコール依存症の自然治癒を隠す理由が知りたい。『ある行旅死亡人の物語』『経済成長の起源』も良さげ。
久田かおりのエンタメは『あわのまにまに』(中目太郎も)。読後感が悪そうな予感。『愛されてんだと自覚しな』は良さげ。逢坂冬馬は読まねばなぁ…2冊目「歌われなかった海賊へ」。

新刊

柿沼瑛子が『野外上映会の殺人』に絡めて、クリスティ別荘を訪れた観光客が嵐で孤立された事件を紹介。当事者よりはSNSの方が勝手に盛り上がったようですね。
https://www.cnn.co.jp/fringe/35206626.html
『ケンブリッジ大学の途切れた原稿の謎』『乾きの地』も手堅く良さげ。
石川美南が最高と言う『少女、女、ほか』は4,500円。軽く試す値段でないのは辛い。
大森望の『美しき血』と『最後のユニコーン 旅立ちのスーズ』。どちらもシリーズをきちんと制覇したいな。斜線堂有紀は、通しのテーマが「苦痛」。そんなの読みたくないけど『本の背骨が最後に残る』は、タイトルが気になって読みたい。問題はキム・スタンリー・ロビンソン『未来省』。私も買ったけど、まったく読む気にならないのは同じ。造本が悪い。感想をチラ見すると星2つ。ダメそう…。
酒井貞道の国内ミステリーでは11月号の広告でも触れた『帆船軍艦の殺人』。ベースに海洋冒険小説があり良さげ。
松井ゆかりがネタあかしをしてくれているけど『照子と瑠衣』のカバーは確かに「テルマ&ルイーズ」だわ。『君が手にするはずだった黄金について』ま、いいかなぁ、と思ったけど、その後、けんご、佐久間久子、久田かおりに挙げられると、うーむ。ゲーム好きの直木賞作家としか知らんからなぁ、小川哲。
「北上次郎ならこれ推すね」。うーん、自由に書評、編集してもらっていいのでは?

連載

大槻ケンヂは「モキュメンタリー」。フェイクドキュメンタリーのことだとか。「食人族」や「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」のYouTube版ですかね、あまり好きじゃないなぁ。プロレスやオカルトが好きな彼らしいとは言える。
穂村弘は「読み返したら何かが違う」。私の場合は「読み返してみたら意外と面白かった」パターンが多いかな。『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』とか。初読はそこまででなかったのに、意外と面白くて驚いたのを覚えています。吉野朔実の漫画にも感心するのがあったけど、あれは再読だったか?
小さく良さげは宇田川拓也の紹介する『ファラオの密室』と、♪akiraお紹介する映画「ファースト・カウ」
freeeが本屋をやっているとは知らなかった「透明書店」。一般向けソフトを作っていれば、ユーザー視線を取り入れたくなるよね。
椎名誠は「木村くん、警官と対決する」予想と違って面白かった。
日下三蔵によれば、ハヤカワ・SF・シリーズ (銀背)は「「全冊揃っていて当然」という雰囲気のある叢書」らしい。「そうしょ」と読む。1957年~1974年なので思い入れもなく関係なし。
石川春菜「世界の持続を可能にすることで精一杯な21世紀から考えると、未来というのは20世紀に特有の産物だったんだな」。上手いわ。あと誰だったかな「2001年、東京」と書いたら未来のはずが現実で混乱すると言ってたのは。
円城塔は『宗教の起源』。「身も蓋もなさがダンパーの魅力の第一」というのが可笑しい。集団は150人を超えたら仲違いを始めるとか、関係代名詞の入り組みの許容が宗教のタイプを決めるとか、どれも面白い。
風野春樹によるとイタリアには精神科病院がないらしい。その分、地域の精神保健局が充実しているとか。『イタリア地域精神医療の思想と実践』。「よい治療共同体を時間をかけて作っていけば」。非常に説得力がある。

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