本の雑誌 2021年11月号 – 池上冬樹のハードボイルド読書ガイドが良かった。

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本の雑誌 2021年11月号 (No.461) / 本の雑誌社 / 667円 + 税
表紙デザイン クラフト・エヴィング商會 [吉田博美・吉田篤弘] / 表紙イラスト 沢野ひとし

高山羽根子の本棚で出てくる「カシマカスタム」ってなんだろう? と検索したら出てきました。いろいろこだわって作られた書棚のようです。
https://allreviews.shop/?category_id=5c89e1ebaa5f4427799da646
では、「All Reviews」とは何だ? と調べると、仏文学者/作家の鹿島茂が立ち上げたサイトだそうです。

「オール・レビューズ」は活字メディア(新聞、週刊誌、月刊誌)に発表された書評を再録するサイトです。

書評を再録するだけでなく、きちんと書評家にも還元しているようで、いいビジネスモデルだと思いました。

特集は「ハードボイルドを探せ!」

探さなければいけない時代なのでしょうか? 田口俊樹の描く “ハードボイルド” は、確かに見つからなさそうですが、スタイルや主張は小説界全体に行き渡っていて、あれもハードボイルド、これもハードボイルド状態なのではないかと思います。ちょうどSFのように。
ところで、田口俊樹は『長いお別れ』を翻訳するそうです。これは期待できる !

杉江松恋の巻頭のハードボイルド物の振り返りは、とてもわかり易く良い導入でした。何となくでしか知らなかった名前がきちんと整理されました。
驚いたのはサラ・パレツキーが現代のハードボイルドを支えているというもの。ウォーショースキーは、初期の江口寿史がカバーを描いていた分は全部読みましたが、次から次へと出現する身内の事件に、あまり感心しなかった記憶です。今も続いているのでどこかで変わったのかもしれません。ちなみにスー・グラフトンも邦訳はほぼ読みましたが、最後は男にべったりだったような。柿沼瑛子が嘆くのも分かります。しかしコーデリア・グレイはハードボイルドかなぁ…。男への依存の仕方が嫌いだったと記憶しているのですが、これも遠い昔だからな。それにしても葉村晶は人気です。

池上冬樹「心理を書かずに 深い物語」が素晴らしい。ついつい登場人物に内面を語らせてしまう、作家の卵たちへの超具体的な読書ガイドです。最初から高度な作品には行かず、近い所、新しい所も交ぜながら、すっと大藪春彦『野獣死すべし』を差し出す。こうくると、これまで素通りしていた「日本ハードボイルド全集」も気になります。

読者アンケートは「このコンビが好きだ」。ここに夏目漱石が出てくるとは思いませんでした、『虞美人草』と『二百十日』。どっちも面白そうです。あとクリスティのトミーとタペンスは懐かしいなぁ、好きでした。

日下三蔵「本に埋もれた家」は、なんと連載! 圧倒的な写真と詳細な説明、「中央に布団が見える」という笑わせるキャプション、エンディングの凄い引き。これから期待してます。

田中香織の紹介する漫画は三原和人『ワールド・イズ・ダンシング』。解説はとてもよく、「舞」を楽しむ気持ち、人には芸能が必要だという確信がよく伝わりました。絵柄が苦手なのだけど読んでみたい。

「未知との遭遇」に、ありきたりな褒め言葉しか浮かばなかった高野秀行が自分の言葉で絶賛するのが「不思議惑星キン・ザ・ザ」。植民地ビルマ視点から語った『1984』に続く、実体験に基づく斜めからの激賞は、立派なSF者です。

鏡明は『幸福なCM』に絡め、小田桐昭に教わったこととして「視点の大事さと、細部の大事さ」を挙げます。矛盾しませんよ。

青山南はジェスミン・ウォード『骨を引き上げろ』。強さがじわじわと伝わってくる紹介。上手いなぁ。ギリギリと厳しい読書になりそうな予感。

堀井憲一郎はヘミングウェイビンゴ。お遊び企画だけど確かにタイトルも文章もハードボイルド。池上冬樹も挙げていましたね。

円城塔は VS Code の拡張を描いているらしい。どんなのだろう。藤井太洋のは縦書き執筆環境でしたね。

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