本の雑誌 2019年5月号 (No.431) / 本の雑誌社 / 667円 + 税
表紙デザイン クラフト・エヴィング商會 [吉田博美・吉田篤弘] / 表紙イラスト 沢野ひとし
特集は「さらば、岡留安則!」
超充実した内容で、まったく外れのページのない素晴らしい特集。 ちなみに今号は全体を通しても内容の濃い号でした。特集が締まると全体も底上げされるのでしょう。
元「噂の真相」編集部が楽しく紹介する武勇伝から彼のむちゃくちゃな行動がわかりますが、虚実ないまぜの報道で迷惑をかけられたはずの被害者たち、石井志麻子、宮崎哲弥、石井和義、家田荘子、見城徹、椎名誠らが追悼メッセージを送るのだからよほど愛されたのでしょう。しかしよく揃えたよね、これだけの執筆陣を…。あと中森明夫の愛あるエッセイも良いです。高橋秀明の言葉によると
「ウワシンの川端とか「本の雑誌」の浜本とかって、典型的な”副編”顔なんだよね。あんな顔で編集長なんかやっても、絶対にうまくいきっこないっすよ」とか。
鈴木輝一郎の新連載は作家の生き残り論。初回の今回は何度も聞いた書店まわりの話なのでまずは小手試しという感じ。次号以降に期待します。
読者アンケートは「私の平成ベスト1」。先月号に続いて高齢者向けのお題です。中では『Santa Fe』と『影武者徳川家康』は確かに「平成のベスト」感があります。
私の「平成ベスト1」はなんだろう、面白かった作品ならいくつか浮かぶけどベストねぇ。考えておく。
あと、頭では分かっているはずなのに、あれ、死んでたっけ? とつい思ってしまったのがデヴィッド・ボウイ。未だに死んだ気がしない。
新刊ではSFが強い、小川一水『天冥の標』完結。長いシリーズの最後で盛り上がると聞くと安心して手が出せます。これは岡部愛の薦めるマンガ大賞1位、篠原健太『彼方のアストラ』全5巻も同じ。そしてイーガンとワッツの新作。
林さかなの海外文学も良いです、ネイサン・ヒル『ニックス』、『ザ・ディスプレイスト』。
面白そうなのが異能頭脳バトル、浅倉秋成『教室が、ひとりになるまで』。『座席ナンバー7Aの恐怖』や『ついには誰もがすべてを忘れる』は物語への作為の入れ込み方に無理を感じる一方、こうまで無茶苦茶な設定だと純粋に楽しめそうです。
そして横山秀夫『ノースライト』。ダムの村の光景と引っ越していない謎がどう絡むのか。北上次郎の紹介が冴えました。
穂村弘の「誰を見たことがあるか自慢」って面白いけど、有名人と会うには年齢以上に場所が重要と地方出身者は思います。あと穂村弘自身も十分「別世界の住人」です。
驚いたのが松井玲奈のあまりに普通っぽい作家風の写真。経歴紹介も含めて真面目に売り出したい編集部の意志を感じます。
西村賢太の通院、サウナ、演芸ホール、寿司屋が「まあまあ無為だと思える無残な一日」なのに、藤澤清造資料の整理で「まこと充実の一日」っていいな。
話題だなと感じるチョ・ナムジュ『82年生まれ、キム・ジヨン』に新しい女性読者を見るのは藤脇邦夫。確かに韓国現代文学とか中国SFとか最近フツーに紹介が増えた印象です。ただ日本にもきちんとフツーの女性読者をすくい上げる作品はあるのでは? と思います。
KADOKAWA が東所沢「ところざわサクラタウン」に移転するらしく、そこではフリーアドレス制とか。こんな田舎でそんなことするとみんな出社しないんじゃないかなぁ。固定席は重要だと経験者は思います。
服部文祥は、狩る側が狩られる側との視点の入れ替えに言及。「我思う故に我あり」と自分の存在を世界認識の絶対位置とする西洋哲学とは考え方を180度異にする動物と自分の間でのゆらぎ。学生時代の倫理の授業は、当たり前のように西洋中心でしたが、あれ正しかったのだろうか?
速水健朗は「私をスキーに連れてって」を紹介。私はホイチョイ作品は映画も本も好きですが、本のクオリティに比べ、映画は予算面で苦労が感じられイマイチでした。演出や脚本はいいのに、やりたいことに比べて予算が足らない。今やり直せばデジタル技術でもっと面白くできるんじゃないかな。駄作と書いている「彼女が水着にきがえたら」も、悪天候に悩まされたロケ部分をカバーできるのではないかと。
で、かっこいいカローラIIのオープニングの件。うーん残念がらちっとも覚えてない。なんか途中、原田知世らの乗った高速バスを追い越すシーンを思い出しました。
アメリカでは競走馬の屠殺は禁じられていてメキシコに運ぶらしい、とは青山南が紹介するウィリー・ヴローティン『荒野にて』(当然、本作は北上次郎も取り上げている)。コカインも米国内で生産すればコロンビアはもっと平和なのに勝手のいい国だと思いました。
特に関連はありませんが、見開きで両方いいなと思ったのが石川美南の『プロレタリア短歌』の紹介と、風野春樹の『昨日の戦地から』。後者はドナルド・キーン編。キーンのルーツを初めて知りました。
最近注目している堀井慶一郎は、夏目漱石のエンディングをぐるっとひとまとめし、『明暗』の読みどころをうまく紹介します。連載当初の無目的な調査から作家論に踏み込んだ分析に変わっていて、ほんといいです。
これで今後も終わりか、と編集後記を読んでいたらバブル期の思い出の紹介で突然、山本直樹登場。そうそう浜本編集発行人と同窓なんですよね。カローラIIだったそうです。