サン・カルロの対決 / A.J.クィネル / 大熊栄訳 / 新潮文庫 / 520円 (映研の先輩石山さんにもらった)
Siege of Silemnce / A.J.Quinnel
中南米の国サン・カルロで、クーデターが勃発。アメリカ大使館は占拠される。キューバの尋問のスペシャリスト、ホルヘは、大使ピーボディが前職において企画した対キューバ作戦の情報を引き出すためサン・カルロ入りし尋問を開始。一方で米軍はスローカム大佐を中心に人質救出作戦を計画する。
作戦そのものよりはピーボディとホルヘを中心とした心理描写が主。主人公のそれぞれの弱さがそれぞれの人称で語られます。ために通常であれば内面を読ませず、非情を通すであろうホルヘさえカッとして怒鳴るし、ピーボディは弱さの固まりそのものを始めからさらす。ちょっと違うがスローカムに指示を与える大統領補佐官コムローシーも秘書の女性とできてたりする。そんな中でホルヘとピーボディの間に擬似的な親子関係を見せたり(そこで語られる主題が恋愛だったりする)、友情を生んだりと、自然な流れで進めていくあたりはうまいです。エピローグが比較的長く、キャラクターを温かく見守る余韻が生まれるのもいいです。作戦自体はもう少し量的、質的に多くても良かったのでは?
さて常に訳し過ぎ、説明し過ぎの新潮文庫。原題の「Siege」は包囲攻撃、長く苦しい期間など。うまいですね。それが「対決」かぁ…。ちなみに本文ではバービー人形、ジッポに訳注があり、バナナ共和国という訳語。時代かなぁ。