本の雑誌 2023年11月号 –

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本の雑誌 2023年11月号 (No.485) イカワタ寄り切り号 / 本の雑誌社 / 700円 + 税
表紙デザイン クラフト・エヴィング商會 [吉田博美・吉田篤弘] / 表紙イラスト 沢野ひとし

特集: 方言と小説

全体的に方言の良さの再確認に終始した感じ。例えば熊谷達也の言うエロが合うとか、翻訳者が方言を当てるのに苦労するとか面白いけど、何となく既視感があると言うか。その中では神谷竜介の有吉佐和子と中上健次の評が良かった。代表作と、方言で表現される登場人物の人生が強く紹介されました。

また、対談における黒川博行の話し言葉はいい感じで再現されています。これは池上冬樹の技か、それとも編集部か? そう言えば『後妻業』の紹介で読んだ関西弁には驚きました。スラスラ読めて、けど本当に目の前でヤクザが凄んでいるよう。今回の対談で作者の超絶バランスの上に成り立っていることがよくわかりました。

アメリカ南部=東北弁のステレオタイプ問題を書いていたのは青山南だったか。鴻巣友季子は林真理子の『私はスカーレット』の画一的な標準語訳を「一つの方法かもしれない」と書いているけど、その前の苦労を読むと本当にありと思っているのかなぁ。

大阪と京都の境目は山崎、らしい。青木大輔が紹介する織田作之助「蛍」の元ネタは、堀井憲一郎の紹介する「大阪の可能性」の中の谷崎潤一郎なのかなと思ったり。ちなみに今月号の方言ネタでは堀井の「「どす」より「おす」が京都っぽい!」が一番面白かったです。

新刊

海外ミステリでは『処刑台広場の女』は評判がいいですね。『8つの完璧な殺人』も面白そう。有名作のネタバレが多数あるらしく迂闊に読めないけど。
海外小説では『グレート・サークル』。前半は消息を絶った女性飛行士、後半はその映画化の話。構成のアイデアが素晴らしく、面白そうだ。
SFではスラデック『チク・タク・…』のエログロさが良さげ。若い翻訳者、鯨井久志を紹介する大森望もいい。
ノンフィクションでは『ビデオゲームの語り部たち』。私は、最近の新しいファンには超絶羨ましがられそうな時代のど真ん中にいたのに、目の前をゲーム文化が通り過ぎていきました。今さら眩しがってもな。『フキダシ論 マンガの声と身体』。本文にあるのかもしれないけど、以前、山本直樹がフキダシの下は描いてない、描かなくて済むようにフキダシを配置している、なので「フキダシ」オブジェクトだけ移動するみたいなことはできないと言ってました。フキダシにはそんな効能もある。
広告でも見て、少し驚いたのが志水辰夫『負けくらべ』。86歳なんだ…。同じく広告の『帆船軍艦の殺人』は18世紀末、英国帆船軍艦内での殺人で、海洋冒険小説の下地もありそうでちょっと興味。
♪akiraはクリスティの『蜘蛛の巣』と映画「私がやりました」。どっちも小さな佳品で面白そう。
山脇麻生の紹介するマンガ『神田ごくら町職人ばなし』。多少のドラマはあるんだろうけど、職人の技が主役らしい。と試し読みを読んだら、わぁ、面白すぎるわ。絵も好み。

連載

穂村弘「いつの間に」。私の心の声がそのまま出てきたかのようなエッセイ。「いつの間にこんなに齢を取ったんだろう、と不思議な気持ちになる。」「どうしてこんなことになったんだ。何故そんな平気そうな顔をしっている」。
大槻ケンヂの種明かしの本と同じかどうか知らないが、『本陣殺人事件』の図説を見た記憶はあります。それこそ同じ頃。しかしまぁ西洋の降霊術は嘘ばっかりやね。もっとこう、うまく、曖昧にできないものか…。
服部文祥の戦争論。授業中に原爆投下を茶化して教師に殴られる思い出と絡めてティム・オブライエン『本当の戦争の話をしよう』『戦争に行った父から、愛する息子たちへ』の紹介。
川口則弘の文芸記者は断定を避けた人。最後の「優秀な記者だった」は皮肉だよね?
V林田は『現場で役立つ 鉄道ビジネス英語』。その道の専門家が作れば何でも面白くなるという典型。インド英語まで紹介するのは、きっと工事とかで関係あるんでしょう。
古本屋台は紡木たく『ホットロード』。おじさんによれば「紡木たくはいい作家だと思うよ」。そうなのか…。連載中はまったくピンと来なかったなぁ。え、2014年に映画化されたの?
円城塔の「文芸にのみ可能な情報処理のあり方」という想像の広げ方が相変わらずいいよなぁ。
風野春樹は『死は予知できるか』は紹介がうますぎて気になる。「予知能力研究の衝撃の結末」って、このタイトルからすると予知して自殺してしまうのだろうか?
沢野ひとしの「ヒトラー・ユーゲントが小梅線でやってきた」。そんな出来事があったのかと驚くばかり。検索すると写真もいっぱい出てくるな。

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