本の雑誌 2023年10月号 – 服部文祥の「「おそらく人工知能がやっているのは、単なる計算で勝負ではない」がいい

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本の雑誌 2023年10月号 (No.484) アジフライ着陸号号 / 本の雑誌社 / 700円 + 税
表紙デザイン クラフト・エヴィング商會 [吉田博美・吉田篤弘] / 表紙イラスト 沢野ひとし

本棚が見たいは早川書房の井戸本幹也。一部にはパラフィン紙もかけられ、前後2段置きなどしない美麗な文庫本棚。綾辻行人が1冊増えると全部移動って、超楽しそう。きっと買う分量も相当なはずなので断捨離してるんだろうなぁ…。

特集「この人の本の紹介が好き!」

本の選択に機動性がなく、ほぼ自分の感性だけで買うので、書評は読むけど行動には移さない。なので「本の雑誌」の愛読者でいながら、その場で Amazon で買うことはない(単純に本屋が好きってのもあるけど)。これ以上、未読本を増やしたくないというのもあるがそれは別の話 … などと思いながら特集を読みました。なので、SNS本の紹介者座談会を読んでも、わざわざ見に行こうとは思わないですね。それは大森望でも同じ。

梨ちゃんの「こんなことを言いたいんじゃないのに」って発言には共感。あるいは3人の批評はしないという、決して逃げでないポリシーも今風(速水健朗には怒られそうだが)。URL の紹介が QRコードってのが単純に進化していて凄い > 本の雑誌。

大森望、倉本さおり、杉江松恋の座談会は原稿料とか仕事の様子とか淡々と紹介されていてとても良い。決して小さな椅子取りゲームでないことがよくわかる内容で希望が持てる。少なくとも翻訳者よりは金銭的にも恵まれてそうだが、自分の努力次第の部分も大きいか。しかし、本の雑誌でWordPress でサイト作る、とかが紹介される日が来るなんてなぁ。

新刊

柿沼瑛子が『アフター・アガサ・クリスティー』に絡めて「3F」を紹介。懐かしい。今でもサラ・パレツキーの新刊は出ているけど、スー・グラフトンは『ロマンスのR』で翻訳が止まってしまったんですよね。本国ではそろそろ完結しているのかと思ったら、2017年、作者死去により「Y」で終わったらしい、「”Z” is for Zero」とタイトルまで決まっていたのに! しかし、絶対「Z」を書くな、映画化もするな、やったら恨んで出るぞという姿勢が素晴らしい。
https://en.wikipedia.org/wiki/Sue_Grafton

大森望は新レーベル anon press の『障害報告:システム不具合により、内閣総理大臣が40万人に激増した事象について』『破壊された遊園地のエスキース』がどちらもIT系っぽくて良さげ。『ヘルメス』はここからどうなるんだ…。残り8割で腰が砕けないといいが。

山岸真のSF新刊ではキム・スタンリー・ロビンソン『未来省』。『荒れた岸辺』以来、ずっと買っている作家。火星三部作は手つかずだけど…。パーソナルメディアという知らない出版社だったのでAmazonで予約したけど、TRON系の会社らしい。だから解説が坂村健なのか。

酒井貞道は1ページ使って京極夏彦『鵺の碑』。無茶苦茶面白そう。17年ぶりでも今年の1位クラスを書けるなんて単純に凄い。こういうときにリアルタイムのファンだったらなと思います。
松井ゆかりでは重いテーマを扱う『藍色時刻の君たちは』。ヤングケアラー(や子ども食堂)はやるせない問題。特に苦労している本人たちが家族を好きというのが何とも…。これだけは政治が動いて欲しいと思います。
すずきたけしのはどれも面白そう。『ソース焼きそばの謎』はGHQが押し付けたという定説を裏切る小麦事情(結果的には政府の弱腰による不平等条約で同じようなものなんだけど)、『心霊スポット考』は場所や人や時間が層を形成して心霊スポットを作っていく様に感心。他に『ホラー小説大全 完全版』『別冊太陽 日本のブックデザイン150年』。

連載

図書カード3万円は金原ひとみ。本棚のエピソードから、購入する本の話までの流れる展開、今月書いた人の夢話まで、無茶苦茶上手い。『母という呪縛 娘という牢獄』への意味不明な逡巡とか。
そうそう、父親が翻訳家とあり、慌てて調べると金原瑞人。うーむ、若くしてデビューって、そういう背景があるのかと妙に納得(だから悪いと言っているわけでなく、そういう環境だから作家を目指すのだなぁと)。で、試しに調べると綿矢りさは普通だ。

古本屋台は静かな風鈴の音が全編を覆い、いつも賑やかなお客さんも落ち着いていてとても良い。

穂村弘は1970年代以降の「革命幻想が急速に薄れていった時代に」「そのエキゾチシズムに惹きつけられた」と振り返る。私にはまったく別世界の物事にしか映らなかったな。
♪akiraは『垂直の戦場 【完全版】』というダイ・ハードみたい(?)な話。面白いのかなぁ。それよりびっくりしたのは、今月本の雑誌に遊びに来た人を見て女性だったの!? と。確かに柔らかい視線の人だなとは思ってましたが。
和氣正幸は作っている最中の「そぞろ書房」。本当にこれで成り立つのか心配でしかない。
@urbanseaは、「月刊アーマーモデリング」。タミヤのプラモデル「ドイツ歩兵セット(大戦後期)」を巡るモデラーやコレクターの言葉だが深い。雑誌の充実ぶりがうかがえる。
服部文祥は『言語の本質』。囲碁や将棋で人間はAIに勝てないのに、プロ棋士たちの世界が魅力的であり続ける理由が素晴らし。いわく「おそらく人工知能がやっているのは、単なる計算で勝負ではないということが、我々に感じられるから」。

日下三蔵は脳梗塞で入院した話。うーん、無事だったから良いもののこういう話が(仕方ないとはいえ)多い。椎名誠が休載すれば「急病ではありません」と書く必要があるくらい。病室で調べ物がままならない話から「やはりネットに転がっているのは情報のほんの上澄みだけで、資料という点では溜め込んだ本にはまったく敵わない」は重みが違う。

鏡明は「言語生成AIと短歌」として「短歌研究」の特集。歌人にChatGPTで短歌を作らせたらしい。山田航の解説は読んでみたい。
円城塔は『数学者たちの黒板』。詩のようなエッセイでしみじみと良かった。きっと本もいいのでしょうね。
風野春樹は『眠り続ける少女たち』。心因性疾患の話で、まずその名前「心因性」が良くないと(現在は「機能性」と言うらしい)。確かに「心因性」と聞くと軽く聞こえますからね、よく知らないのに。
堀井憲一郎は枕草子の原文と現代語訳を比較し、省略された章段を紹介する。誰もが気にすると思うけど、本当に調べるのがいい。

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