本の雑誌 2023年6月号 (No.480) / 本の雑誌社 / 700円 + 税
表紙デザイン クラフト・エヴィング商會 [吉田博美・吉田篤弘] / 表紙イラスト 沢野ひとし
特集「理想の本棚を求めて」
裏の特集は「フラヌール書店開店!」じゃないのかと思うくらいに、3月にオープンした五反田の書店を激推しです。フリーランス書店員「久禮亮太(くれりょうた)」は相当の有名人のよう。著書に『スリップの技法』がありますから、このタイトルから想像するに過去、「本の雑誌」にも登場していたのでしょうね。「書店を開くために本棚を自作した話」は軽いエッセイ風に書かれていますが半年間の製作は相当な作業量だったはず。始める前にしっかりした構想や経験があってのことでしょうね。棚の中身も恐らく素晴らしいはず。行ってみたいと思います。
中野善夫は2月号でコンマリに喧嘩を売り、「本を買え、天に届くまで積み上げろ」と言ってたくせにガンガンPDF化して物理的な蔵書数を減らし理想の本棚を実現しているらしい。裏切られた気持ちよりも、そんなぁと脱力感が襲います。
書物蔵は本棚の歴史。あの構造と形以外想像できていなかったのですが、確かに和綴じのペラペラ本じゃ無理ですもんね、改めて歴史と発明に驚きました。今回は日本の本棚ですが、西洋の歴史も扱ってほしいですね、中世にはあったのかとか。「薔薇の名前」ではあったような気がするぞ。いやいやローマ時代にあったのよとか。
新刊紹介
宇田川拓也の紹介する恩田陸『鈍色幻視行』は良さそうですね。3回映像化が試みられるが必ず死者が出て頓挫する小説『夜果つるところ』。その呪われた作品の取材をする主人公。様々なテーマが含まれていそうな上に、この小説内小説も出版されるとか。いろいろ仕掛けが楽しそうです。
すずきたけしの紹介する『アメリカ映画に明日はあるか』は、紹介だけ読むと当たり前の議論でちょっと小ぢんまりした印象。面白そうなのが『地獄遊覧』。いろんな宗教や文化、時代の描く天国と地獄を紹介するなんてそれは面白いやろ。
連載
図書カード3万円企画は佐藤厚志。芥川賞作家にして書店員@丸善仙台アエル店。買った本では山田詠美『ベッドタイムアイズ』が意外だったのだけど、芥川賞選考委員の縁か。
大槻ケンヂは「デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場」。「プロレスとオカルトと若さとバカの憎めなさ」と謎の説得力を持って分析してみせ感心させた所で、話を前フリに戻して着地する。もう無茶苦茶うまい。関係ないけどB’z やってくれるんじゃないかなぁ。
岡崎武志はメルカリで70冊出して、7割売れて、31,730円。7割売れれば凄いし、売上はそんなもん。そんなの始める前から気づけよとは思います。むしろ古書店は月に何冊売っているのか?
浅生ハルミンのメキシコ人青年リカルド(25)に年齢を言って引かれるシーン。辛いなぁ…。
山脇麻生の漫画は『鍋に弾丸を受けながら』。美少女しかいない世界でのリアル飯。結果、美少女は記号化され視覚的に圧縮され、「未知の味」「未知の場所」が浮かび上がる仕掛けらしい。なんて高度な。もはや美少女の価値なんてそんなものなのかという意味でも驚かされます。
@urbanseaは清水ちなみの「おじさん改造講座」。何となくタイトルを聞いたことはありました。1987年~1997年の雑誌連載って、時代の急降下感が凄すぎます。いや本気で日本はずっとあーなんだと信じてましたからね。
椎名誠は丑の刻参り。この手の怪しい民間信仰の話題は興味深い。ちなみに私の実家の神道の葬式も怖いです。祝詞を上げている途中で部屋の照明が消され、唸り声が始まります。
ポーの『黄金虫』の読み方は「おうごんちゅう」なのか「こがねむし」なのか問題。確かに私も「おうごんちゅう」と読んでました。で北村薫の『ミステリ十二か月』。真相は…、おぉーと納得の悩ましさでした。
服部文祥はこれまでの元気で長生きするための最新科学本総まとめ。「生き物は死なない程度に厳しい環境に晒されると若返る。」一般受けはしないけどバズると思うんだけど、まだ話題になっていません。
V林田は鉄道と野球を日本に伝えた平岡凞。何かいろいろ物凄い、留学しなくても成功したのだろうタイプの人。
石川春奈が紹介するのは碇雪恵『35歳からの反抗期入門』。Y世代の女性の自分語りのようですが、最初からできていたわけでなく、少しずつ表出していった様子が感じられ興味を持ちました。次回、文フリで会えるかな。
円城塔は『闇の奥』を背後に置く『すべての野蛮人を根絶やしにせよ』。「理性は人を守ったが、誰を人と見なすかには恣意性が長く残った。今も残る。」両者ともに理解できそうにないけど無茶苦茶面白そう。
風野春樹は「辞書から消えた言葉の事情」。三省堂国語辞典は徹底的に現代に追随する編集方針らしい。へぇ。